優しい活火山
2代目となったCLSの最上級モデルCLS63AMGに乗ってみました。
AMGと言えば本格スポーツカーなのでSLやC・Eクラスのイメージが強く、このちょっと洒落たスタイルのCLSにはキャラクターとして合わないのでは?なんて乗る前には考えていました。
CLSはAMGの強力なパワーよりも550あたりのユニットでエレガントに静々と走る方が相応しいのではないかと考えていたのです。
ところが、実際に乗ってみると、このちょっと低めのポジションとワイドなボディによる安定感、それに加えてフル4シーターの実用性を併せ持つCLSは、AMGのパワーを得て正に最強ではないかと考えを新たにしました。
SL並みに低いポジションによる軽快なハンドリングとEクラス並の居住性はスポーツ性と実用性を高い次元でバランスしています。
多面性を持ったCLSはAMGの中でもかなり魅力的なクルマだと感じました。
スタイル★★★★
顔はまんま最新のメルセデス流ですね。
ライトはもちろんフルLEDで片側だけで71個ものLEDが使われています。
プロポーションは他のメルセデス・セダンと違いCピラーからなだらかに続く垂れ下がったリアを特徴とします。
それはワゴンのシューティングブレークでも同じですね。
トランクスペースや空気抵抗では不利になるこの処理をするのは、CLSが実用性だけではなくエレガンスを重視しているモデルだからです。
それでも初代の線の細さは無くなり、ぐっと力強くなりました。
盛り上がったリアフェンダーなど初代には無い処理ですが、このAMGにはむしろしっくりときます。
まあ、初代では議論を呼んだこの4ドア・クーペ・スタイルも今や誰も意義を唱える事が無くなったのはメルセデスが示したその販売実績と美しさ故のことでしょう。
試乗車はオプションとなる「AMGカーボンエクステリアパッケージ」だったのでカーボンファイバー製のトランクリッドスポイラーリップとリアディフューザーが付いていました。
内装★★★★☆
内装はこのクルマのハイライトの一つですね。
EクラスではなくCLSを選ぶのはこの豪華な内装に魅せられるユーザーも多いと聞きます。
AMGではダッシュにはリアルカーボンが張られダッシュもトリムもフルレザーとなります。
試乗車はさらに「デジーノ」と呼ばれるオプションの高級なレザーシートが付いていました。
機能も充実していてシートヒーターはもちろんマッサージ機能やコーナリング時に外側のサポートを締める機能なども付いています。
ちなみに時計はIWC製です。
AMGのステアリングは左のみですね。
ポジションはEなどのセダン系よりももちろん低く、それがスポーティーな印象を助長します。
グリーンハウスが小さく相対的に高い位置にあるドアやダッシュも囲まれ感を演出している要素です。
一方リアシートも十分に使えるスペースを持っているのもこのCLSボディの特徴です。
見かけよりもヘッドクリアランスは確保されており大人が座ってもどこも窮屈なところはなく、むしろその囲まれ感が心地いいぐらいの濃密で贅沢な空間に仕上がっています。
エンジン★★★★
このM157型は先に「CLクラス」や「Sクラス」に搭載されて世に出たAMGの新しい主力ユニットですね。
従来の6.2リッターから5.5リッターへとダウンサイジングしたV8エンジンは直噴化とツインターボによる過給により、11psのパワーアップと約30%の燃費向上も実現しています。
スペックはV型8気筒5.5リッター直噴ツインターボで、CLS63 AMGではノーマルが最高出力525ps/5250-5750rpm、最大トルク71.4kgm/1750-5000rpmですが、試乗車のパフォーマンスパッケージでは最高出力557ps/5500rpm、最大トルクが81.6kgm/2000-4500rpmまでアップします。
市販車では間違いなく最強の部類です。
サウンド及びフィールはAMGそのものでファンの期待を裏切らない仕上がりです。
つまりスタートボタンを押すと「ブババババーン」と盛大にスタートしたかと思うとアイドリングから迫力の重低音サウンドを発し密度の高さを感じます。
NAのM156と比べると低中速トルクが強力になっている事が印象的です。
確かにNA特有の繊細さやリニアな加速感という意味では僅かに譲りますが、トルクの厚さは圧倒的でアクセルを踏めば即座に望むスピードと場所に連れて行ってくれます。
どの速度どのギアにあってもひとたび前が空けば一瞬でワープするという意味ではこれ以上のユニットを知りません。
またAMGのM157がツインターボながらレスポンスとリニアリティを重視している事も十分に伝わります。
つまりこれほどのパワーでありながら急激なトルクの盛り上がりもなく極めて扱いやすい性格に躾けられています。
またその正確な印象を高めているのは良く出来たAMGスピードシフト(ツインクラッチ)によるところも大きいです。
スタートもスムーズでシフトショックも皆無、つまり完璧にメルセデスの基準にあります。
MCTのモードは、「C」(コンフォート)、「S」(スポーツ)、「S+」(スポーツプラス)、「M」(マニュアル)の4段階に切り替え可能。
S+でシフトスピードが最速となりますが、そのモードでも不快なショックはありません。
スタートダッシュを決めるローンチコントロールも付いています。
またアイドリングストップ機構も標準装備となっています。
マナーもこのクラスに相応しい出来です。
停止滑らかで再始動も迅速で振動も最小。
ただ迫力のあるサウンドイメージのAMGだけに、信号待ちでエンジンが止まると不思議な感覚ではあります。
足回り★★★★
ノーマルでもそうですがCLSのいいところはメルセデス特有の湿ったというか外界から完全に隔離された快適な乗り心地と、楽しく爽やかなハンドリングを両立していることでしょう。
AMGは「AMG RIDE CONTROLサスペンション」となりますが、これはダンパーの減衰特性を「COMFORT」「SPORT」「SPORT+」の3段階から選ぶ事が出来ます。
しかし「SPORT+」にしても硬さが変わるだけで直接的なショックは一切伝えません。
ボディの剛性感が高いのもこのCLSの特徴です。
「SPORT+」にしても快適な印象を失わないのはこのボディの貢献も大きいと思います。
星が1つ足らないのは電動のパワステが今ひとつ路面感覚を伝えない事です。
当日は雨が降っていた事も影響したかもしれませんがもっとソリッド感が欲しいと感じました。
ただフィールは実に滑らかで高級感の高いものです。
まあこのステアリングと浮遊したサスペンションがメルセデス流の乗り味と言うか快適性の一員かもしれませんが。
総評★★★★
今回の試乗はあいにくのウエット・コンディションだったので、その性能をフルに試す事が出来ませんでした。
だってちょっとアクセルを踏み込むと直線でもホイールスピンをはじめESPが介入します。
285/30-19のリアタイヤをもっても557psは流石にFRでは受け止められません。
それでも一切の不安がなかったのは流石にメルセデスだと感じました。
557psのパワーをFRのシャーシで雨でも不安なく走らせる。
これは並みの技術では出来ません。
しかも一切の快適性を犠牲にすることなくです。
ライバルはパワーで言えばポルシェ・パナメーラ・ターボS(550ps/6000rpm、76.5kgm/2250-4500rpm)がほぼ同等です。
スタイルでいえばBMWの650iグランクーペやアウディS7辺りでしょうか?
スポーツ性でいえばパナメーラに軍配が上がりますが、ボディサイズや小回り性、実用性などはCLSでしょう。
価格もパナメーラ・ターボSの2481万に比べればリーズナブルに感じます(GTSなら1554万ですが)。
メルセデスの乗り味に慣れた人、AMGのサウンドやフィールが好みと言う人は迷う必要はありません。
間違いなく最新のAMGモデルに相応しい内容を持っていると思います。
【スペック】全長×全幅×全高=4995×1880×1410mm/ホイールベース=2874mm/車重=1900kg/駆動方式=FR/5.5リッターV8DOHC32バルブツインターボ(557ps/5500rpm、81.6kgm/2000-4500rpm)/価格=1755万円(AMGパフォーマンスパッケージ)
(※この記事は2013年1月に書いたものです。有料版の記事の一部を加筆訂正し約1年遅れで配信しています。)