6代目となるこの新型SクラスW222は2013年5月15日に発表され、同年8月23日に日本でも発表されました。
私は新型にはこれまで2度ほど乗りましたが、実はいずれもその乗り心地に不満を持ちました。つまりランフラット特有の低速での硬さを感じたのです。
もちろん絶対値としては全く持って問題のないレベルですが、これは自ら世界最良を謳うSクラスの最新モデルです。並のレベルでは許されないのです。
さてさて発売から約1年を経てそうしたネガは改良されていたのでしょうか?
スタイル★★★★
新型「Sクラス」のCd値は、従来モデルを0.02下回る0.24!
大きなセダンという有利な形状であることを差し引いても素晴らしい値です。
CLAもそうですが昨今のメルセデスは高速燃費のキーはやはりCd値であると確信し、そこには容赦なくコストをかけているようです。フロアやホイールアーチなどに入念な対策が取られています。
スタイルは先代からすると小さく見えます。
これは先代にあった過度なエッジや強調されたフェンダーアーチなどを排除し、より自然で一体感のあるフォルムとしたからでしょう。
実際街中で見ても先代のちょっと嫌味な威圧感は無く、さりげなく風景に溶け込んで見せます。
これはとても好ましいと感じました。
また、なだからに下がるラインで構成されたリアビューもエレガントですね。
ちょっとクラシカルなムードもあります。以前は空力のためにはハイデッキが主流でしたが、昨今はそうした問題も解決されたようです。垂れ下がったトランクは容量こそ失ったものの、引き換えにエレガントなスタイルと優れた後方視界を得ました。
内装★★★★
内装も曲面で構成されたちょっとクラシックなものになりました。
それはステアリングに象徴されます。
1950~1960年代のメルセデスベンツに用いられていた2本スポークのステアリングが復活しました。
官能的なカーブを描くそれはMercedes-Benzのロゴまでクラシックです。
ダッシュボードも流線型で両サイドが丸められているのでボディが小さく感じられます。
なかなかセクシーな造形です。
インパネはフル液晶タイプです。
ここは革新性が同居する部分です。
中央には12.3インチの大型液晶ディスプレイが置かれ、その右側のメーターにも同サイズのディスプレイが用いられています。
照明のカラーは7色の中から選べます。
シートはサポートに少し不満がありますが、AMGではないので良しとしましょう。
サイズもたっぷりしていて何の不満もないものです。
リアシートもホイールベースが3035mmもあるのでもちろんスペース的にも何の不満もありません。
ただ、前後とも今となって思い出してみて「素晴らしいフィット感だったなあ!」とか、「なんて居心地がいいんだ!」という記憶がないのです。
これは正直ちょっと寂しいです。
例えばベントレーやアストンマーチンにはこうした記憶が残ります。
まあ、価格が違うといわれればそれまでですが。
エンジン★★★☆
エンジンは3.5リッターV6 DOHC 24バルブです。最高出力:306ps(225kW)/6500rpm、最大トルク:37.7kgm(370Nm)/3500-5250rpm、トランスミッションは7速でパドル付です。
モーターは最高出力:27ps(20kW)/モーター最大トルク:25.5kgm(250Nm)リチウムイオンバッテリーをリアに搭載します。
パワーは十分です。ハイブリッド特有の違和感もありません。問題はV6エンジンのノイズが意外と騒がしいことです。音質もSクラスの基準では粗いと思います。
内装の雰囲気からするともっとスイートな音質が期待されます。
モーター走行時はもちろん無音なのでいいです(最高35km/hまでにモーター走行が可能)、また高速走行時に惰性でコースティングする「セーリング機能」もあります。
JC08モード燃費は15.4km/リッター。これは素晴らしいです。
足回り★★★
問題の部分です。
結論から言って改善されていませんでした。
試乗当日は雨だったせいか、乗り始めの一瞬はハーシュが軽くなったかと期待しましたが、それは雨音にかき消されただけでした。
ハイブリッドのしかもSは音が静かなこともあって特に厳しくなりますが、低速でのタイヤから伝わるコツコツとした僅かに硬質なハーシュネスはやはり最高級車の乗り心地に相応しくありません。
タイヤサイズは前が245/45R19、後ろが275/40R19。
標準でランフラットタイヤが装着されます。
同じくランフラットを使うBMWの7も当初この問題を抱えていましたが、今やすっかり解決しています。それに比べるとSは物足りないです。
またあろうことか内装が僅かに緩い感じを受けるのもマイナスポイントです。
悪路を通過するとごくたまに音を立てます。
これではボディの剛性感まで印象が悪くなります。
実際数値的には問題ないでしょうが、人が感じるという意味でのボディの剛性感は昨今のレベルでは高くありません。
これは特にコンフォートモードで感じます。
足まわりは他の「Sクラス」と同様にAIRマティックサスペンションです。
これがコンフォートでは意外にフラフラと無駄な動きが多いです。
これも乗り心地に悪影響を及ぼします。
結果、ハンドリングも「路面に根の生えたような」と形容された以前のメルセデスの安定性はありません。ステアリングフィールは緩く正確性を欠きます。路面音フィールの伝え方もメルセデスとしては甘いです。
極端に言えばレクサスのようなちょっと退屈なステアリングです。
スポーツモードに切り替えると幾分マシになりますが、根本的な解決には至りません。
解決には「マジックボディーコントロール」が必須ですが、このS400ハイブリッドには残念ながらそれはオションでも用意されません。
ただハンドリングの素性自体は悪くありません。
リチウムイオン電池の搭載位置の関係もあると思いますが前後重量配分は51:49と理想的です。
実際「マジックボディーコントロール」を与えられたAMGモデルはハンドリングも乗り心地も満足のレベルと聞きます。
しかしS400ハイブリッドの最大の弱点はここだと思います。
総評★★★
価格は1090万円と戦略的です。
これは消費税が8%となっても据え置かれるそうです。
ただ私はこの足とステアリングはやっぱり好みに合わないです。
どうも歴代のSクラスの乗り味は好みではないです(ここ3代)。
Sでいいと感じたのは実に3代目のW140にさかのぼります(AMGモデルはその限りではない)。
今のこのクラスの好みで言えばA8、7シリーズ、Sクラス、XJの順になります。
まだ乗っていませんが今のSクラスならS63AMGまで行かないと満足できないかなと思っています。
【スペック】ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5120×1900×1495mm/ホイールベース:3035mm/車重:2090kg/駆動方式:FR/エンジン:3.5リッターV6 DOHC 24バルブ/モーター:交流同期電動機/トランスミッション:7段AT/エンジン最高出力:306ps(225kW)/6500rpm/エンジン最大トルク:37.7kgm(370Nm)/3500-5250rpmモーター最高出力:27ps(20kW)/モーター最大トルク:25.5kgm(250Nm)タイヤ:タイヤ:(前)245/45R19 102Y(後)275/40R19 101Y(グッドイヤー・エフィシエントグリップ<ランフラット>)/燃費:15.4km/リッター(JC08モード)価格:1090万円