いまだ魅力的なGT
ひょんなことから、3日ほど928の面倒を見ることになりました。
久しぶりに乗る928は30年も前にデビューしたクルマとは思えないほどの性能を持っていて、、現代の基準で見てもとても魅力的なスポーツカー・GTカーでした。
●概要
1977年のデビューです!
直進性に不利な911とは別に、アウトバーン・エクスプレスとして企画されました。
「長距離を快適に走る豪華なGTを」との要求に応えたモデルです。
当初、V8SOHC 4474cc 240ps 最高速度230Km/hでしたが、79年には928Sとなり、V8SOHC 4664cc 300ps 最高速度250Km/hに。
さらに84年にDOHC化され 4957cc、87年には928S4とし 4957cc 320ps 最高速度265Km/h、90年に928GT 330ps 最高速度275Km/h、92年に928GTS 5400cc 350ps、時代の要求に合わせて高性能化されましたが、97年に生産中止、20年の生涯を閉じました。
スタイル★★★★
デビューから30年を経ていまだ未来的です!
当時まだ小学生だったオヤジはカーグラ別冊「ROAD TEST」の表紙を飾るその大型巡洋艦というか宇宙船のような迫力ある物体を見て¥1800もしたその本を、郵便局に貯めていたお年玉預金をはたいて買ったのを今もはっきり覚えています。
当時リアバンパーを外し、3輪車のような計測器を付け、谷田部のバンクを張り付くように疾走していた赤の928はボクにはハッキリとUFOでした。
911ですら3リッターの時代、V8の4,5リッターを積むのはベンツのSクラスだけに許された特権のように感じていましたから随分驚いたものです。
100キロを2000回転そこそこで達成してしまうハイギアリングや、1900mmになんなんとする車幅も当時、規格外でした。
その車幅も現代の基準では普通になりました。全長も4515mmと、いまや997と10センチも違いません。
当時まるで巨大な深海魚のように感じたその巨体も、今見ると随分と締まって見えます。
それだけ現代のクルマが肥大化してしまったと言うことでしょう。
そういう意味でも928は先進的で、デビュー当時は軽く20年のアドバンスを持っていたのだなと思います。
この未来的で個性的な928デザイナーは、確か924・944もデザインしたフランス系のアナトール・ラピーヌだったと記憶していますが、とにかくその曲面美は後にも先にも似たクルマの登場さえ許さなかったという事実を見てもオリジナリティー溢れるものでした。
リアにプラス2の座席が与えられます。
トランスアクスル故の大きなセンタートンネルで仕切られたそれは、血気盛んなポルシェ使いのリアに閉じ込められるはめになった住人のための強力なサイドサポートの役目も果たします。
フロントは今の基準でも広いですが、決してルーズではなく、スポーツカーとしての張り詰めた空気感が保たれているのはポルシェならではでしょう。
この個体のカラーはホワイトレザーとパープルの組み合わせというもので、なんとも華やいだ仕様です。流石にかなりくたびれていますが、シートの張りやステアリングの革などはしっかりしているのは見事です。
良質な革を使っている証拠です。
80年代当時、リッチなビジネスマンが晴れた日のアウトバーンを疾走するに相応しい内装です。
ベンツと同じV8、4.5リッターでも、こちらは迫力が違います。
トルクの目が詰まっていて、どこからでも襲いかかるように加速します。
アイドリングから重低音を響かせ、1000も回っていれば4速でも十分な加速をするのはV8とそのキャパゆえです。
アクセル開度に応じてノートを変えるのもポルシェはスポーツカーユニットをよく心得ていますね。
しかもこの重いはずのV8が、高回転では実にシャープにふけます。
スリップ感の少ないATも気持ちよく、常にアクセルと直結したような加速をしてくれます。
流石に第一級とはいいませんが、その迫力・性能・味わいなど、全てに於いて今でも大満足のユニットです。
コーナリングの姿勢を安定させるためにリアのセミトレーリングアームにバイザッハアクスルと言うトーコントロール機構が付けられた事が特徴です。
これは荷重がかかるとリアをトーインに変化させ、安定性を保つというものです。
リアエンジンの911で長年ファイナルオーバーステアと戦い続けてきたポルシェの回答でした。
セミトレの弱点であったジャッキアップ現象(ターンインでのブレーキングで荷重がフロントに移動するとアライメントが逆ハの字になり、接地面が極端に減少して一気にドリフトアウトする)のを嫌ったデザインで、後に登場する190シリーズ(1979年)のマルチリンクに影響を与えたといわれています。
トランスミッションもリアデファレンシャルと一体としたトランスアクスル方式を採用し、重量配分の適正化を図っているのもスポーツカーとして運動性を重視したコンストラクションです。
まあまあ、そんなややこしい話を抜きにしても928の乗り心地とハンドリングは衰えていませんでした。
現代のタイヤに少し助けられている感もありますが(ダンロップの265/50-16はダンロップらしい芯のある安定した乗り心地と粘るグリップでした)、それを差し引いても928のドライブはとても楽しいものでした。
高速で右足に直結したかのような自在のスピードコントロールを許す豪快なエンジンと、正確なステアリング、安心できる制動力を持つブレーキのコンビネーションで、何台ものクルマをパスしながら高速コーナーをいくつもこなしているとこのクルマがそんなに古いクルマとは思えません。
フロントガラス越しに長いオーバーハングを持つノーズが右へ左へ動いているのを見のは少々古典的でロマンチックですが、ロングノーズのGTを知るオヤジ世代にはそれもまた楽しです。
久しぶりに乗った928はポルシェそのものでした。
ドアはその時代(930)の911のように「カッキーン」と硬質な音を伴って閉まります。
いわゆる「金庫のような・・」というその剛性感は走り出しても変わることはありません。
「タン・タン」と路面の不整を押しつぶしながらフラットに走る様はポルシェそのものです。
吸いこまれるようなブレーキや、飛ばせば飛ばすほど高まる安定感、精緻なステアリングフィールさえ衰えていません。
排気量とサイズこそ大型ですが、ポルシェの緻密なドライブフィールには少しの手抜きもありません。
この時代のポルシェのプロダクトにはメーカーのプライドを強く感じます。それは911であっても928であっても変わりません。
久しぶりに乗った928は80年代がドイツ車のビンテージイヤーだったことを強く感じさせてくれました。