小型SUVという待望のジャンルに、VWクオリティ&367万円という戦略的な価格、
つまりガチガチの鉄板マーケティングで登場の「ティグアン」です。
特に日本よりライバルの少ない欧州では、発売するや否や3週間で4万台をセールスするという大ヒットとなりました。
●概要
本国では2007年末、日本では08年10月の発売でした。
RAV4やCR-V、エクストレイル、デュアリス、フォレスターなど、日本では数多く存在する小型SUVですが、輸入プレミアムのCセグとなるとBMW・X3(570万円~)やフリーランダー2(410万円~)ぐらいしかありませんでした。
5月には2リッター直噴ターボのエンジンを30psアップの200psに高め、17インチホイールやスポーツシートを装着した「スポーツ&スタイル」も導入される予定です。
ちなみに車名のティグアンはドイツ語の虎(Tiger)とイグアナ(ドイツ語ではLeguan)からなる造語です。「躍動的でダイナミックな虎と力強くタフなイグアナのイメージ」でオンとオフのクロスオーバーというわけです。
スタイル★★★
フロントはそう言われてみればイグアナっぽくも見えてきます。砂漠で身を潜め獲物を狙う鋭い目つきを持っています。
兄貴分のトゥアレグよりもエッジの立ったスタイルは現代的で、例えばBMWのE46がE90になった感じです。
グリーンハウスも広くクリーンな感じもあります。
シャーシはフロントがパサート、リアがゴルフですが、スタイリングもそんな感じです。
シャープなフロントに丸くコロッっとしたリアの組み合わせがちょっとアンバランスに感じます。後から見るとクロス・ゴルフと見違えます。
内装★★
ここはもっとも残念な部分です。
何の楽しみもないグレーの内装カラーはベーシックVW特有の暗さで、シートの素材も汚れにくいのは分かりますが相変わらずスーパーで売っているジャージのような素材です。
ダッシュもガッチリとした作りの良さこそ感じますが、プラスチッキーでデザインもゴルフプラスに似て面白みはありません。シャープなフロントのエクステリアと比べ丸基調で、これまたアンバランスに感じます。
エンジン★★★
エンジンは直4、2.0直噴ターボの170psです。
パワー的に不足があるというほどではありませんが、加速時のがさつなサウンドが興ざめです。
初期の直噴特有の硬質な音ですね。これが200ps仕様であれば、その分ダイレクトに加速するので豪快でスポーティーなフィールとなるわけですが、この170psでは音の割りにもう少し進んで欲しいと感じてしまいます。
ミッションもオンだけみればダイレクトなDSGが欲しくなりますが、これはSUVとして6ATの選択は正解でしょう。オフでのコントロール性と信頼性の為にはこれでOKです。
細かなところではパサートに続いて電子制御パーキングブレーキが採用されています。
渋滞時にクリープを殺してくれるオートモードを持ちますが、これが、スタート時に少し引っ掛かりがあるのであまり使いたくなくなってしまうのが残念です。
足回り★★★☆
ステアリングは軽く、シートも高すぎず、コーナーでのふらつきもありませんから、視界がいい分、普通のセダン以上に乗りやすいです。
サマータイヤ装着の為、乗り心地もスムーズでゴルフと遜色ありません。
街中でもたまに遭遇する大きなギャップをハイスピードのまま強行突破できるのはこの種のクルマのメリットです。
またそうした時にボディがしっかりしているのはもちろん、足回りの取り付け剛性が高く信頼に足るあたりも国産との違いです。
デビュー時に感じた細かなピッチングやリアシートの乗り心地の荒さも改良されたのか、随分スムーズになりました。
ただ、最小回転半径がトゥアレグの5,4mに対し5,7mもあるのはちょっと疑問です。
総合評価★★★☆
これほど便利で、これほどハードの出来が良く、これほどオールマイティなクルマはなかなかありません。
走りのしたたかさもドイツ車ならではのもので、価格もリーズナブルです。
では、何ゆえ?3★半なのか?
ハードがあまりに良く出来ているので、街中では「ただ背の高いゴルフ」になってしまっているのです。
トラの場面では、背の高い分だけ楽しさで背の低いゴルフに及びません。
イグアナの部分は試していないので何ともいえませんが、VWのことですし、このコンストラクションをみると間違いなさそうです。
ただSUVに求めるのはそれだけではありません。
内装も走りもですが、ティグアンにはSUVに期待する豊かさと夢が足りません。
トゥアレグやアメリカンSUV、エクスプローラーなどにはある、あの大らかさとゆったりした味わい深い乗り心地がティグアンには欠けています。
最近、ほぼ同じ価格帯の新型ムラーノに乗ったのも悪かったかもしれません。そこには先代同様ゆったりとしたピッチの癒しの乗り心地がありました。
着座位置の高いSUVに乗るからには、自然を感じる豊かな空間で、上質な乗り味に身を委ねつつ、山々に思いを馳せたいものです。
実用一点張りの質素な内装と、理詰めで正確な動きの中では、ドライバーは「イグアナモード」ではなく、「ビジネスモード」になってしまうのです。