BMWのディーゼルはこれまでVol.66で「X5 35d」、Vol.101で「X3 20d」、Vol.151で「アルピナD5 Turbo」を試乗していますので今回で4台目、4気筒としてはX3に次いで2台目です。
まあ、乗る前は以前に試乗したマイナー前のガソリンの523や、同じくマイナー前にちょい乗りした523dのちょっと良くなかったイメージもありましたし、何より先月乗ったばかりのアルピナのD5の印象があまりに良かったので、「比べるとちょっと落ちるだろうなー」と思い、実はあまり期待していませんでした。
ところがところが、このマイナー後の5シリーズはエンジンも足も大いに洗練されていたのです。
これはちょっと驚きでした。ではでは以下詳細を。
スタイル★★★★
ここは何とも安定感があるというか!
先代のE60/61のアグレッシブなスタイルからすると全く持ってオーソドックスですが、プロポーションに非の打ち所がないのと、このキドニーグリルがある限りもう何も言えません。
ディテールもしっかりとしています。例えばボンネットのプレスラインは実に複雑に抑揚が付けられているにもかかわらず嫌味がありません。
全く持って完成度の高いスタイルです。
内装★★★☆
内装も品質感は文句ありません。
これもマイナーでレベルが高くなっています。
デザインはBMWお得意の水平器朝のモノで左右の広がりを感じさせます。
これは室内の解放感には貢献しますが、車幅を必要以上に意識させることにもつながります。
ダッシュの切れ目とドアのつなぎ間がラウンドしていないのは昨今のBMWに共通する処理ですが、これはドライバーズカーとしてはどうかな?と思っています。
一方中途半端なのは、センターコンソールをBMWの伝統に倣ってドライバー側に傾けていることです。
このドライバーオリエンテッドなインパネは確かに伝統ですが、この水平器朝のダッシュに合わせるには無理があると感じます。
そこだけ寄り添っても?って感じです。
いいのはトランクですね。このワゴンボディのトランクルームの容量は560〜1670リッター。
後席は40:20:40の可倒式になっています。
ガラスハッチだけ開くことも出来ますし、バンパー下のセンサーで足で空けたりすることも出来るなどその使い勝手はかなりいいと思います。
エンジン★★★★
「523d」を名乗るりますが、このエンジンの排気量は2リッターです。
スペックも184psおよび38.7kgmで「320d」や「X3」と変わりません。
特徴はディーゼルエミッション対策が安価なNOx吸蔵触媒(NSC)をつかいつつポスト新長期規制をクリアしていることですね。
高価でメンテの必要な尿素SCR(選択触媒還元)システムを使う事なくNOx吸蔵触媒(NSC)で仕上げ、価格をガソリンの23万円アップに抑えたことは評価できると思います。
まあ、今や日産やマツダもこれで対応していますが、細かなチューニングを必要とする(NSC)を輸入車でいち早く安価に導入してきたのは流石にエンジン屋の面目躍如ではあります。
スタートボタンを押すとアイドリングを始めますが、ここでこのクルマがディーゼルエンジン特有のカラカラ音や振動がほとんど伝わってこないことに気付きます。
私の記憶ではマイナー以前の「523d」や「3シリーズ」や「X3」ではここでディーゼルをはっきりと意識させられました。
またトルクのツキも良くなっていると感じました。トルクはもともと十分でしたが、4気筒でもストレスなく回転を上げるスムーズさもあってなかなかスポーティーな印象すらあります。
実際、車重も523dのほうが6気筒エンジンを積む535iより60kgも軽いのでその印象は間違っていないと思います。
とにかくギア比も高いので、引っ張る必要はなく、少しアクセルを踏むだけでのびやかな加速をし、目的のスピードに達します。
高負荷時のサウンドもカリカリいう並の直噴エンジンより静かなぐらいです。
もちろん、先月乗ったアルピナのD5(6気筒、280ps/4000rpm 61.2kgm/1500-3000rpm)とは比べられませんが、率直に言って期待以上のモノでした。
トランスミッションはZFの8段AT。アルピナの70型ではなくトルクに合わせてキャパの小さな40タイプですが、基本的に仕事の質は変わらないように感じます。
8速なのにシフトビジーな感じは無く、素晴らしくスムーズです。
流石に高回転やアイドルストップ作動時などに4気筒のハンディは感じますが、アルピナを知らなければ、何とも高級なディーゼルユニットと感じる事でしょう。
足回り★★★★☆
エンジン同様マイナーで進化の幅が大きいのがこの部分です。
マイナー以前の5シリーズは率直に言ってリアのピッチングが大きく、アウディなどに比べその乗り心地はフラット感を欠くものでした。
それが実にどっしりとした安定性を持つ乗り心地に激変しました。先月アルピナに乗った時も「ここまで変わるか!」と感じましたが、もしかするとベース車両の進化が半分ぐらい入っていたかもしれません。
それほど今回の足は良くなりました。
例えばギャップを超えた時のバウンジングが以前は前と後ろ別々に来ていましたが、それが新型では同時に来て1発で収まる感じです。
これで揺れが半分になったようにさえ感じます。
ステアリングも落ち着きと剛性を増しました。足のせいもあるかもしれませんが信頼感がぐっとアップしました。
走行性能を統合制御する「ドライビングパフォーマンスコントロール」も標準装備ですが、これをスポーツにすると正にBMWの走りになります。
ぐっと足が引き締まり、ボディに一体感が増します。トルクフルなエンジンとのコンビでなかなか素晴らしい走りをします。
総評★★★★
スポーティーな印象ばかりを書き連ねましたが、このクルマの神髄はのんびり走っても楽しいことです。
それだけ高級な走りを持っています。
ゆっくり走っても楽しめるので、クルマにせかされません。
まさかこの感じがBMWで味わえるとは予想外でした。
良く出来たアメ車やフランス車の癒しというと語弊があるかもしれませんが、この523dにはゆっくり走った時の楽しみがドイツ車には珍しく濃厚です。
5シリーズでこの感覚を探ると初代の518iか2代目の525iあたりまで遡らなくてはなりません。
期待していなかっただけに、久々に優しいBMWに接して満足な春のドライブを楽しめました。
【スペック】全長×全幅×全高=4920×1860×1480mm/ホイールベース=2970mm/車重=1890kg/駆動方式=FR/2リッター直4DOHC16バルブ ディーゼルターボ(184ps/4000rpm、38.7kgm/1750-2750rpm)/燃費=16.6km/リッター(JC08モード)/価格=744万円