●概要
この新型XJ(X351)は日本では2010年に発表された5代目ですね。
ボディはSWB「スタンダードホイールベース」(3030mm)と、125mm長いLWB「ロングホイールベース」(3155mm)の2種。
エンジンは5リッターV8直噴で(欧州にはV6ディーゼルターボも)、チューンは3種、NA(385ps、52.5kgm)、ロングホイールベース用のスーパーチャージド(470ps、58.6kgm)、最強のスーパースポーツは高過給型スーパーチャージド(510ps、63.7kgm)、ミッションは全車6AT。
グレードは「ラグジュアリー」、「プレミアム・ラグジュアリー」、「ポートフォリオ」、「スーパースポーツ」の4種で、今回試乗したのは「ポートフォリオ」のNA右ハンドルです。
スタイル★★★★★
今回のモデルチェンジのハイライトですね。
先代まで続いたXJのイメージときっぱり決別したスタイルは賛否両論ですが、私ははっきりと肯定派です。
それは新型がフォルムとしてはるかに新しいだけでなく高級車としてのオーラというか魅力を十分に放っているからです。
この特徴的な6ライトクーペ的なスタイリングを手がけたのは「XF」と同じく、元アストン・マーティンのイアン・カラムですね。
新しさのポイントは、ブラックアウトしたリアピラーでしょうか。
3ボックス感など微塵もないクーペスタイルは、先代XJのはっきりしたセダンフォルムとの違いです。
これがモダンな印象を新型に与えています。そして嬉しいのはジャガーのポイントである繊細さとエレガントさも持っていることです。
先代と決別し、新しい時代を切り開いていこうとする姿勢は高級車として評価できると思います。
ジャガーのアイデンティティは昔からスタイルとバリューで時代の先端を行くことだったと思います。
その意味で新型は、スタイルは変わってもその精神において、先代の保守的なスタイルのX350よりもはるかにジャガーらしいと思っています。
内装★★★★☆
内装も新しいテイストが取り入れられています。
一見、ウッド&レザーの世界は従来のジャガーワールドかと思いますがそうではありません。
サイドまで丸く続くウッドのラインや、コンパクトにまとめられたメーターナセルなどはラグジュアリークルーザーのテイストを取り入れています。
これがサイズの割にコンパクトな印象を与え、高級パーソナルカーの雰囲気を与えます。
もちろんドンガラのミニバンでは味わえない甘美な世界です。
さらにこの「ポートフォリオ」では、ダッシュボードもレザーとなり、ルーフやAピラーはアルカンタラで覆われているため高級感は申し分なしです。
特に厳選されたその素材やカラー、手仕事感のあるステッチや豊富なメッキ仕上げの華やかさなど、日本車がいまだ逆立ちしても敵わない部分です。
輸入車を買う意味は個性的な乗り味だけでなく、正にこの部分にあるといえます。★が半分足りないのは後述しますが僅かに軋み音が出ていたからです。
エンジン★★★
正統的な90度のV8は4.2から5.0になりました。
パワーアウトプットは4.2比で80ps&10kgmほど増え、385ps/6500rpmの最高出力、52.5kgm/3500rpm。可変バルブタイミング機構や直噴など精緻なコントロールで、11.5という高い圧縮比を実現しています。
スターターボタンをプッシュすると「ズオンッ」と図太い音で目覚めセレクターがせり上がるのはXFと同じですがいまだ新鮮で楽しいですね。
走り出すと「シュンシュン」と風のように回るのはジャガーの伝統です。ZFの6ATもスムーズでブリッピングも決まります。
しかしジャガーとしては感覚的なスムーズさというか濡れたような色気が感じられません。
スーパーチャージャーの毒が欲しい所ですが、その場合300万ほどのエクストラが必要になります。
まあ言いがかりのような注文ですが、このクラスにはNAであっても楽しさや個性があっていいと思います。
あまりにスムーズすぎて、レクサスのようなエンジンだったものですから・・。
足回り★★★
サスペンションは、フロントがダブルウィッシュボーン、リアはダブルウィッシュボーンを基本にトーコントロールリンクを付加したマルチリンク。
これにエアサスが付きます。ボディは先代と同様にアルミでXFよりも軽くなっています。
XJが下のクラスより軽いというのは先代のSクラスとの時と同様、コストをいとわず最高の技術を投資するというジャガー・フラッグシップの矜持です。
ただ先代もそうでしたがアルミボディというのはどうしても硬質な乗り味になり、乗り心地にいなしがきかなくなる所があります。
ジャガーのディープでたおやかな乗り味は表現できていません。
思えば先代からXJのエンジニアリングというか乗り味がはっきりと変わりました。
もっと古いマニアはいやいやXJ40からもうジャガーじゃないなんていわれていましたが・・。
硬めのアシ、高いボディ剛性、高い速度域までを想定したステアリングなど、締まった乗り心味が印象的です。
これがドイツ車に似てしまった部分です。
ジャガーの個性であった柔らかい足に重めのボディ、低い重心がもたらす、しっとりした乗り心地、それはもう帰ってこない思い出なのでしょうか。