このジャガーのフラッグシップセダンXJ(X351)シリーズが7年ぶりにフルモデルチェンジし日本に入ってきたのは2010年6月です。
5リッターのポートフォリオについてはこのメルマガでも2011年4月に取り上げていますが、今回試乗したのは約3年遅れで追加された4気筒2.0です。
いよいよこのクラスにもダウンサイジングの波ですね。
日本でも近々4気筒がクールということが認知されるでしょうか?
スタイル★★★★★
ここはこのモデルのハイライトですね。
先代まで続いたXJのイメージときっぱりと決別したスタイルです。
デビュー時から賛否両論ですが、私ははっきりと肯定派です。
それは新型がフォルムとしてはるかに新しいだけでなく高級車としてのオーラも十分に持っているからです。
全長×全幅×全高=5135×1900×1455mmの堂々たるボディをクーペ的にまとめたのはこのクラスではなかなか斬新です。
この独特な6ライトクーペのスタイリングを手がけたのは「XF」と同じく、元アストン・マーティンのイアン・カラム。
新しさのポイントは、ブラックアウトしたリアピラーですね。
細いAピラーと薄いルーフの軽快感は伝統的な3ボックスイメージなど微塵も感じさず、非常にモダンな印象です。
そして嬉しいのはジャガーのポイントである繊細さとエレガントさも持っていることです。
先代と決別し、新しい時代を切り開いていこうとする姿勢は高級車として評価できると思います。
ジャガーのアイデンティティは昔からスタイルとバリューで時代の先端を行くことだったと思います。
その意味で新型は、スタイルは変わってもその精神において、先代の保守的なスタイルのX350よりもはるかにジャガーらしいと思っています。
内装★★★★
内装も新しいテイストが取り入れられています。
一見、ウッド&レザーの世界は従来のジャガーワールドかと思いますがそうではありません。
サイドまで丸く続くウッドのラインや、コンパクトにまとめられたメーターナセルなどはラグジュアリークルーザーのテイストを取り入れています。
実寸よりもダッシュを低く小さく纏めることで、ドライバーにサイズの割にコンパクトな印象を与える事に成功しています。
これが高級パーソナルカーの雰囲気を与えます。
速度計や回転計をバーチャル表示する12インチのカラー液晶パネルや、巨大なセンターコンソールの上にせり上がってくる例のドライブセレクターなどディテールもモダンでハイテク感のあるものです。
もちろん高級感は申し分なしです。
特に厳選されたその素材やカラー、手仕事感のあるステッチや豊富なメッキ仕上げの華やかさなど、日本車がいまだ逆立ちしても敵わない部分です。
この2.0では限られますが、上級グレードではオーダーによってかなりのカラーバリエーションを選べます。
このクラスの輸入車を買う意味は個性的な乗り味だけでなく、正にこの部分にあるといえます。
★がひとつ足りないのは僅かに軋み音が出ていたからです。
ここは1年前にも指摘したのですが直っていませんね。
初期モデルゆえの症状だと思っていたのですが、このクラスの高級車では許されないことです。
エンジン★★★☆
注目の2リッター直4ターボエンジンは240psと34.7kgm。このエコプースト・エンジンは「レンジローバー・イヴォーク」や「フォード・エクスプローラー」で既にお馴染みのものです。
相変わらず2.0というキャパが信じられないほどのパワーとスムーズさをもっていますね。
素晴らしいエンジンです。
ATも他車の6速から8速にバージョンアップされています。
これもシフトビジーを感じさせないほどスムーズで実にいい仕事をしています。
1700kg台半ばの「イヴォーク」はもちろん、2020kgの「エクスプローラー」だってかなりの走りをみせるのですから、この総アルミボディで1780kgのXJが走らないはずがありません。
ではこれほどのエンジンなのに何故★が欠けるのか?そうマウントのせいか他車に比べ僅かにスムーズさに欠けるのです。
こちらの方がはるかに高いのに!
ここも内装の件と同様にテストドライバー不在の感がありますね。
また、せっかくのダウンサイジングなのにアイドリングストップが無いのも残念です。
足回り★★★
前後ダブル・ウィッシュボーンのサスペンションはリアにのみエア・スプリングを持ちます。
タイヤサイズはフロントが245/45ZR19、リアが275/40ZR19。
乗り心地にいまやXJライドはありません。
リアのピッチングを感じることも無い代わりに、深く沁みるような情感もありません。
アルミボディになってからヒタヒタと重厚なタッチという感じではなくなりましたね。
昔のXJファンからするとやはりここは物足りない部分です。
そう、どこか少しつま先立って軽快に駆ける、という感じの乗り味になっています。
ただハンドリングはいいです。
ステアリングにほとんど遊びがないのは、ジャガーの伝統通りで、ギア比も高級サルーンとしては異例に速く軽いボディ(スチールボディの競合車より約150kg以上軽い)とあいまってこのクラスとしては非常にスポーティーでフィット感のある印象です。
飛ばすと見事なドライバーズカーです.
★が欠けるのは絶対的にはいいに間違いないのですが、この少々らしくない乗り心地と、もうひとつはブレーキが最後に食いついてスムーズに止まれない件です。
少し前までの輸入車には多かった事象ですが、今のこのクラスではありえません。
どううまく抜いても最後で少しつんのめります。
これもデビュー時から改善されていません。
総評★★★
ジャガーと言えば12気筒のダブルシックス!と言うのはかなり古い世代ですね。
いまやこの全長5mオーバーのフルサイズセダンを2リッターの4気筒ターボで走らせる時代です。
次世代のメルセデスベンツSクラスも4気筒がデビューする予定ですが、ジャガーは一足先にダウンサイジングに打って出ました。
スタイリングもそうですが、なかなかチャレンジングなその姿勢は評価できます。
しかし、その仕上がりはまだまだです。
タタに抵抗して有能なテストドライバーが辞めてしまったのでしょうか?テスラに取られた?
エンジンマウントの件しかり、ブレーキや乗り心地の件しかり、繊細なタッチやドライブフィールにこだわるジャガーとしてはありえない放置ぶりです?
このXJはスタイルや内装に新たな魅力があるだけに本当に残念です。
ちょっとした煮詰めで素晴らしく先進的で魅力的な高級車になれたのにと思います。
早急な見直しを期待します。
【スペック】XJ 2.0ラグジュアリー:全長×全幅×全高=5135×1900×1455mm/ホイールベース=3030mm/車重=1780kg/駆動方式=FR/2リッター直4DOHC16バルブターボ(240ps/5500rpm、34.7kgm/1750rpm)/価格=900万円
(※この記事は2013年3月に書いたものです。有料版の記事の一部を加筆訂正し約1年遅れで配信しています。)