ベントレー ミュルザンヌ 試乗
武士道を知る男のクルマ
試乗の前にちょっとプライスをチェックして後悔しましたね!
3814万8800円(オプション込み)!
ロールスロイスのゴーストよりも1000万近くも高い!
まあ、乗っちゃったものは仕方ない。。
今週はすみません、ちょっと予定変更です。
先週予告した「BMW235i Mスポーツ」を来週にして今週はなんとなんとのベントレーのミュルザンヌをお送りします!
これまでのこのメルマガの最高金額(フェラーリF12の3600万円の記録を塗り替える最高級車です!
皆さんはベントレーにどんなイメージをお持ちでしょうか?
私の中では「ロールスロイス」はもともと金持ちのクルマ、
英国で言うところの「貴族のクルマ」です。
方やこの「ベントレー」は自分の実力で財を成した「強い男のクルマ」です。
クルマの歴史に詳しい殿方ならご存知のとおり、ベントレーは1931年にロールスロイスに回収されて以来、同じメーカーの異なるブランド、つまりジャガーとデイムラーと同じバッジエンジニアリングだったわけですが、実はその生い立ちはかなり違います。
創業者のウォルター・オーウェン・ベントレーはもともと裕福ではありませんでしたが、エンジニアとして才能があり、航空機の優秀なエンジンなどを設計していました。
また第一次世界大戦勃発とともに、イギリス海軍航空隊の大尉となり、戦闘を率いる強さも併せ持った人物でした。
ベントレーはレース好きとしても知られ、初期のル・マン24時間レースでは5回も優勝しています。
この車名の「ミュルザンヌ」もル・マンの行われるサルテ・サーキットのコーナーの名(ユノディエールという名物の6キロに及ぶストレートエンドに位置する魔の直角コーナー)に由来しています。
つまり金持ちのロールスに対してベントレーは単なるオルタナティブではなく明確な理由を持って選ばれるブランドなのです。
知性も力もある、強い男のクルマなのですね。
またロールスがショーファードリブンとして使われることが多いのに対し、ベントレーは裕福でも本当にクルマが好きで、運転も好きな人のクルマ、自らステアリングを握るためのドライバーズカーとして作られています。
実際、ロールスロイスを持っている人の最も歴史ある組織の名称が『ロールスロイス・オーナーズクラブ』であるのに対し、ベントレーの場合は『ベントレー・ドライバーズクラブ』と呼ばれます。
もうお分かりでしょう。
中でもミュルザンヌは現在販売されているベントレーの頂点に位置するフラッグシップモデルです。
スタイル★★★★★
序章でお伝えしたとおり、昔のベントレーは実に男らしく無骨な車です。
ル・マンで負けたエットーレ・ブガッティは腹いせにベントレーを評して「世界一速いトラック」と揶揄したのは有名な逸話です。
確かに80年に発売された先代のミュルザンヌ(ロールスと同一)は直線基調の単調なデザインでした。
しかし、98年にロールス/ベントレーがVW/アウディに後の02年にロールスだけがBMWに売却されて以来、資金的にも潤沢なったこともあり、個別のボディが与えられ絶滅危機種にあったベントレーは生き返りました。
もともとベントレーはデザインに拘りの強いブランドです。
個人的な好みで言えば、歴史上の白眉は1950年のH・J・マリナーのRタイプコンチネンタルでしょう。
これは2ドアの大型クーペで、今のコンチネンタルGTの祖父母に当たるモデルです。
巨大な白いボディを纏うこのクルマのスタイルはエレガンスの極みでした。
ネーミングもヨーロッパ大陸(コンチネンタル)を当時100マイル(160km/h)で駆け抜けたことに由来するなど、なんともロマンティックな成り立ちのクルマだったのです。
話が飛びました。
現行のミュルザンヌのスタイルは先代から一転、よき50年代のエレガンスを纏って復活しました。
ボディサイズは全長×全幅×全高=5575×1926×1521mm/ホイールベース=3266mm。
これはかの基準器メルセデスベンツSクラスが小さく見えるほどのサイズです。
顔はこの超大型ボディに平然と丸目2灯を与えるという大胆さです。
この大小のヘッドランプを組み合わせたフロントデザインは、1957年の「S1コンチネンタル」にそのモチーフを得ています。
特徴的なアルミのフロントフェンダーは航空機の技術を応用したといいます。
非常に凝った一体形成で、500度に熱したパネルに空気で圧力をかけて成形する「スーパーフォーミング法」という特殊な工法で作られます。
ここだけ見ても量産車にはとても出来ない所業です。
リアは垂れ下がったお尻に縦型のコンビネーションランプというなんともクラシカルな趣ですね。
これは馬車時代のトランクの名残を表現しています。
神は細部に宿るといいますが、ディテールも凝りに凝っています。
アンテナは無粋とトランクに内蔵されますし、楕円のドアハンドルは美しくクローム処理され内側には滑り止めのローレット加工が施されます。
格納式のラジエターマスコット「フライングB」は、41万2900円のオプションです。
ちなみにボディカラーはカタログに載っているものだけでも114色!
もちろんその他どんな色でもオーダーも可能です。
そして少し離れてみると、その全体のフォルムは威厳に満ちたものです。
その風格は磨きこまれた塗装の品質や隙の無いボディの建付けにもよりますが、ミュルザンヌの凛とした佇まいはこの独特なデザインによるところも大きいと思います。
このクルマは街の景色を変えます。
ミュルザンヌが歴史ある神殿だとするとメルセデスのSクラスは六本木ヒルズです。
このクルマを前にほとんど全ての高級車は子供っぽく見えてしまいます。
内装★★★★★
ここも白眉です。
リアドアをもちろん自分で閉めることはありませんが、オートクローザーの付いたドアはそれが閉まった瞬間に、車内をクラシックホテルか古い図書館に変えます。
辺りは平穏な空気が流れ静寂が訪れます。
話が飛びますが、ホテルのドアマンでこのオートクローザーの付いた車種を理解している人にはチップを弾みたくなりますね。
最悪“バスッ”とやられてもこの車の場合、それは重厚で澱み無く、エアの抜けも良く計算されていますから、さほど不快ではありませんが。
革の香りも計算されています。
イタリア車のように甘すぎることもありません。
英国車は男のクルマですからね。
革の質は最上のものです。
フライングスパーよりも少し分厚く柔らかく、そしてしっとりもしています。
好みもありますが、こと革に関してはロールスのゴーストよりも上だと思います。
このクルマのお下がりがSクラスやレクサスに回ります。
リアシートの広さも特に高さでSクラスのロングを上回ります。
しかしSクラスのようなリクライニングはありません。
それは英国の流儀だからです。
クルマといえど外で寝そべるような姿勢は英国の紳士には許されません。
それがわがままな貴族や成金との違いです。
ベントレーはノーブレスオブリージュの何たるかを無言で示します。
マッサージはこっそり楽しめるのですけどね^^
時計はブライトリングです。
メーターは0が1時の位置にあります。
これは航空機スタイルの名残ですね。
そしてウッドパネルはよく見ると、運転席側と助手席側とで左右対称になっています。
鏡のように左右で一致することから、ベントレーではこの仕上げ方を「ミラーマッチ」と呼んでいます。
ちなみにベントレー本社にはすべての顧客に対して同じ柄をキープしてあるそうです。
ちなみにインテリアは24色、カーペットも24色、そしてウッドが9種類の中から選びます。
この選択肢の多さが高級というものです。
つまり高級車のオーナーはここでも知性と個性を試されるのです。
まあそれはある人には楽しみでもあり、ある人には苦しみでもあるかもしれませんが。
ベントレーはオーダーから9週間かけて作られますが、この内装だけで170時間も使うといいます。
またミュルザンヌのトランクには専用のスケドーニ製の旅行鞄が用意されます。
大型のかばん2個、小型のかばん2個、折り畳み式のガーメントバッグ2個の合計6個がセットになったもので、デザインはインナードアパネルを模したものとなっています。
ここまで話してきてこのクルマの異常なクオリティの理由が掴めてきました。
このクルマのデビューは2010年、これがポイントです。
2013年にマイナーしたフライングスパーは価格(V8モデルで2000万円を切る)を抑えるためにコストダウンの匂いがします。
一方このミュルザンヌは価格差もありますが、VW/アウディグループがまだロールス/ベントレーにコミットし、過剰なコストを許容していた最後の時代かもしれません。
またベントレーは100年持つといわれています。
それはメーカーが100年間の部品の確保を約束しているという事なのですが、この内装を見ていると本当にそんな気がしてきます。
100年後の風合いを見てみたい気になります。
エンジン・ミッション★★★★
ミュルザンヌのエンジンは、6.75リッター・ツインターボです。
新しい?フォルクスワーゲン由来のW型12気筒ではなく、その基本は50年前の由緒正しいLシリーズのV8、OHVです。
パワーアウトプットは2つのタービンの力を借りて、最高出力512ps/4200rpm、最大トルク104.0kgm/1750rpm!
しかしエミッションの厳しい現代ですから、古いブロックとはいえ、かなり改良は加えられています。
その改良パーツは300点以上といいます。
可変カム位相や可変シリンダーといった最新のメカニズムをはじめ、クルージング時は8気筒の半分を休止して、V4エンジンとして稼動するなどしています。
ミッションもZFの8ATと最新のスペックです。
後ろに乗っている限りエンジンの可変にはまったく気づかないです。
トルク変動もスムーズでターボというイメージはまるで無く、その加速はどこまでも風のように一直線に伸びて行く気持ち良さがあります。
音もほとんど無音です。
イギリスのオートカーによると「ミュルザンヌのアイドリング時における騒音計の数値はたった39dBで、これはゴーストよりも5dBも小さい。また80km/h時ではジャガーXJ3. 0Dより4dBも静かだ」とあります。
ただ無音といってもレクサスやSクラスのような人工的なものではなく、それは自然に溶け込んだ無音です。
エンジンは風のように囁き、外界とはある距離をもってフレンドリーです。
この6750ccという巨大なキャパを持つエンジンの奥深さを知ると、フライングスパーの新しいV8、4リッターツインターボでさえちょっと乱暴でせかされる感じです。
足回り★★★★
2585kgの巨体がもたらす安定は大柄のプロレスラーに抱きかかえられたかのような安心感です。
また最新のエアサスペンションと大柄なシートはいかなるギャップもソフトにしかししっかりと受け止めてくれます。
たとえ高速で大きなうねりを通過してもリッツのベッドに放り投げられるよりも穏やかです。
驚いたのは縦方向にこれほどソフトなサスペンションなのに左右の不快な揺れが最小な事です。
例えせっかちなショーファーが交差点でステアリングを切りすぎてもいやなゆれ戻しがありません。
ステアリングのギアレシオがスローかつスムーズなのでラフな動きにならないそうです。
確かにレシオの速いフライングスパーではもっと上半身が“ゆらゆら”して酔うかと思いました。
後で聞くと新型のフライングスパーは世界2位(1位は北米)の市場である中国にあわせてバネ定数を前10%/後ろ13%、アンチロールバーは前13%/後ろ15%、サスペンションブッシュも25%から最大38%も柔らかくしたそうです。
その点このミュルザンヌはまだ理想的なセッティングが施されています。
この項目、唯一ハートが一つ欠けるのは最新のSクラスの「マジックボディコントロール(MBC)」のようなアクティブ系の飛び道具が無いことです。
MBCは、車載のステレオカメラで前方15mの路面状態を立体的に解析し、実際にそこを通過する寸前に適切な減衰力に調節するという本物のアクティブサスペンションですが、これの効果は絶大です。
でも、もしMBCが付くことで、今の自然でたおやかなミュルザンヌの少し古典的でかつ芸術的な乗り心地が失われるなら今のままでもOKです。
総評★★★★★
とにかく成金趣味でないのがいいですね。
あのヒルズ族の与沢翼は若者を騙すために分かりやすいロールスロイス・ファンタムに乗っていましたね。
他にもフェラーリ458スパイダーやランボルギーニ・アヴェンダドールという“いかにも”なクルマにも乗っていました。
間違っても彼はミュルザンヌを選ばないしミュルザンヌも彼を選ばない。
本物が分かる人のクルマなのです。
このクルマに乗っているだけである意味、フィルタリング出来るのです。
このクルマに乗っていてもエセ・ヒルズ族とか寄ってこないのでオーナーも都合がいいわけです。
それとやはり希少性でしょうか?
ベントレーの営業とマーケティングを担当していた取締役のスチュアート・マックロウ氏は、「すべてのモデルを合わせても、ベントレーは年間1万台しか造りません。このクオリティを守りながら製造するには、1万台しか造れないのです」といいます。
ちなみにこのミュルザンヌの日本での販売台数は年間200台にも満たないそうです。
例えばフロントグリルでもロールスロイスはパルテノン神殿のようにそびえ立っています。
それが今の時代にそろそろ合わなくなってきているだと感じます。
古い体質の大企業の二代目のボンボンみたいな。
方やこのベントレーのアンダーステイトメントは、男に例えるならすべて持っているのに自然体で決して見た目で威嚇しようとしない感じ・・。
しかも隠居した貴族では無くてビジネスをまだだま現役で戦っている武士です。
どうです?
理想的な男でしょ?