高校生の時に彼女の誕生日プレゼントにと思い、初めてヴィトンの店に入った時なみの緊張感で出かけました。
一応、愛車のアウディS8(これだって新車なら1700万だ!)を洗車し、時計はベントレーに合わせてブライトリング(かなり古いけど)をはめて戦闘体制は万全です。
休日で街はかなりの賑わいをみせていましたが、フェラーリと併設されたコーンズ&カンパニーの正規店ショールームは流石に誰もいません。ピカピカの大理石のフロアやガラス越しに見えるミリュルザンヌの圧倒的なオーラが庶民をはねつけるのでしょう、外から眺める人はいてもなかなか店の中間で入る人はいません。
外で眺めていても仕事にならないので意を決して潜入です。
私だってその昔、雑誌の仕事をしていた頃はフェラーリだってロールスロイスだって何度か乗ったことがあるぞ!広報の○○サンだって知っている!なんて呟きながらドアを開けると、受付の超綺麗なお嬢様が迎えてくれました。それにしてもこの人、管野美穂を清楚にしたような(どんだけ美人なんだ!)感じで、流石は貴族の会社(確か採用は縁故のみ)コーンズというか完全に顔で選んでいるだろ!ってレベルの美女です。
慣れた感じを装い「ちょっと見せて下さい」と言うと、その管野美穂はまるで天使のように疑いの無い笑顔で「どうぞ、ごゆっくり」と言って厳かにお辞儀までしてくれるではありませんか!
ミュルザンヌ(3380万)のドアを開けて乗り込んだり(モーターショーなら完全に鍵がかかっています)携帯でガシャガシャ(ショールームに響く(><))写真を撮っていると、これまたマイケル富岡を若くした様な如何にもマダム好みの営業マンがやってきました。
コンチネンタルGTを挿して「グリルが大きくなりましたねえー、これは575馬力のやつ?」なんてお得意の知識を動員して色々と話していたら、あっさり「良かったら乗ってみませんか?」というではありませんか!「そう?じゃあちょっと試してみようかな?」と私。
出てきた黒塗りのコンチネンタルGTは新しいV8ではなくW12の方です。
V8は既に完売で年内は入ってこないそうです!もちろん前々回のポルテみたいにドアに試乗車なんてシールは張ってありません。
前置きが長くなってしまいましたが、そろそろクルマの説明も少し。
ロールス&ベントレーがフォルクスワーゲンの傘下に入ったのは1998年です。
その後2003年にはロールスロイスはBMWの傘下に渡ったのはご存知の通り。
コンチネンタルGTの登場は2003年、特徴的なフロントマスクとVWの技術的なバックボーンもあって大ヒットしました。
この2代目は2011年に登場。スタイルは初代と同じラウル・ピレス。
キープコンセプトで門外漢には見分け辛いですが、大きくなったグリルとLEDライトがポイントです。
スタイル★★★★
流石に大きくて目立ちますね!街を行けばかなりの確率で視線を集めるのはマイケル富岡を乗せているからではありません。
やはり凝縮された巨大な塊の放つオーラが圧倒的だからでしょう。
デビュー当時、一部のメディアはVWのイメージやクロームレスの奇抜なグリルを理由にこのスタイルを否定したものですが、市場はこの大胆な変化を完全に受け入れました。
いつの時代も専門家は過去に囚われ気にしますが、新しい時代の顧客はアウトプットだけが判断基準です。
フロントマスクの存在感やフェンダーの張り出しなどで力強さを出しつつ、滑らかな面でエレガンスを感じさせるプロポーション自体の手法は実は古典的なのですが、細部の特にリアコンビネーションランプなどクロームを一切廃したデザインは古い時代の高級車へのアンチテーゼとも受け取れます。
こうした大胆なアプローチにエネルギーを感じたのでしょう。
若い新富裕層はピレスのこのスタイルをエモーショナル且つ独創的と捉え完全に受け入れたのです。
フォルムは繊細な印象もあるロールスロイスと比べ力強く男性的なこともベントレーの特徴でしょう。
このコンチネンタルGTも大きなオーバーフェンダーなど筋肉質な印象を受けます。かのブガッティから「世界一速いトラック」と揶揄された逸話は現在も健在のようです。
内装★★★★☆
内装はやはりベントレーのハイライトですね。
時計はアストン同様ブライトリングですね。
革の質もベンツやジャガーが可愛そうになるぐらいにしっとりとしています。
この革を知るとベンツやBMWの革は合皮ではないかと疑いたくなります。
ベントレーの革はそれほどにしっとりと若い美女の肌のように吸い付きます。
今は無きコノリーレザーの記事でこんなのを読んだ事があります。
「カスタマーは世界中の高級車メーカーですが、最高のものはロールスロイス・アストンマーチン・ベントレーに行きます。ベンツやBMW・ジャガー・レクサス・キャデラックなどはその次ですね」。
実際この内装に触れるとベンツのSクラスもただの高級実用車に感じます。
エルメスとヴィトンぐらい違います。
また内外装の組み合わせが自由になるのもこの種のクルマを買う楽しみです。
ショールームには外装の色見本が並べられ、内装の革やウッドの見本も何十種類もあって組み合わせは無限大です。
大塚家具で高級ソファーをオーダーするように分厚く重い見本をぱらぱらと捲っていると、センスのいい彼女とこうして選べたら幸せだろーなーなんて妄想に駆り立てられます。
フルオーダーですから納期は半年から1年ぐらいかかりますが、金持ちは細かなことは気にしません。
彼らには他にも楽しみは色々あります。何百万単位のエクストラコストも彼らにはノーブレスオブリージュです。
あとはもうこのクラスになるとデザインの細かな事よりもオーラと香りですね。
フェラーリなどイタリア車はちょっと甘い香りですが、このベントレーは流石に少し男っぽいというか皮の香りを強く感じます。
私はこの香りはアストンマーチンの次に好きです。
匂いフェチの人ならかなりはまると思います。
この甘美な香りは2000万超の超高級車ならではの世界です。
ちなみにショールームにあったミュルザンヌはコンチネンタルよりさらに上でした。
はっきり言ってロールスのゴーストよりもいいと思います。
実際、価格もゴーストよりも高いですが、ミュルザンヌは今や走りも一流ですが、クルマというより家具というか調度品、美術品を買ったと思っても価格以上の価値があるかもしれません。
エンジン・ミッション★★★
フェイスブックにティザーした「3つの欠点」の答えのうちの2つは意外にもココにあります。
現代世界最高のVWグループの技術をもっても?高級車の走りはかくも難しいのか?
エンジンはVWフェートン&トゥアレグ、アウディA8 6.0などでも使われた6リッターW型12気筒にツインターボを加えパワーは575ps、トルクは71.4kgm!0-100km/hの加速タイムは4.6秒、最高速度は318km/h!
これの何が不満?そう!パワーは文句ありません。むしろ4WDもあって風のようにシュルシュルとあっという間に望む速度に達してしまいます。
問題はちょっと古い6ATです。
スムーズさで劣るツインクラッチを嫌った割には僅かにショックが出ます。
特に止まる寸前に2から1へ落ちるのですがその際にカッっという僅かな音とショックがあります。
個体差かと思いマイケルに尋ねると、育ちがいいのか「そうでは無い」と正直に答えます。
これが1つ目。
ちなみに新しいV8モデルの8ATはこの欠点は解消されているそうです。
2つ目はエンジンのトルク特性です。
ツインターボをもっても575psの盛り上がりはなかなかのもので、アクセルを一定にしていても加速が一定では無い。
また6ATのシフトがそれを助長します。
つまり一定の加速が得にくい。
普通にアクセルを踏んでいくと、急にトルクが立ち上がったり、またシフトアップによって急に失速したりで、スピードのコントロールが難しいのです。
よく出来たNA&ツインクラッチでは考えられない特性ですが、流石に大パワーのターボ&古典的な6ATの組み合わせでは少し大きめの挙動が出てしまうようです。
これが2点目。
これも8ATのV8(507ps)ではリニアな加速が実現されているそうです。250万安くよりスポーティーなV8モデルはお勧めですね。
ちなみに雑誌でよく(唯一)指摘されている(これが乗るまで私の知る限り唯一の欠点と思っていた)欠点としてステアリングのパドルが遠いというのがありますが、これは確かに遠いのですが、ベントレーのキャラクターである「イージー&レイジー」からすると私はこれで良しと感じました。
ベントレーはアストン程戦う貴族では無いのでこのゆったりとしたリズムを生む要素になっているように感じたのです。
足回り★★★★
気になると思うので先に3つ目を言っておきましょう。
ブレーキですね。
スムーズに止まれない。
ショファーならずとも止まる寸前にノーズダイブを防ぐべくスッっと少しリリースするわけですが、どうしても最後にギッっと音が鳴り食いつきます。
まあこの辺りは日本車が上手く輸入車は最近まで下手でしたが、今ではBMWでさえスムーズに止まれるようになってきています。
ただ流石に乗り心地はとてもいいです。
よく言われるように「分厚い絨毯をひいた様な・・」という常套句そのものの心地いい隔絶感と浮遊感があります。
系列のアウディA8のエアサスをさらにストロークを豊かにした感じに近い?しかし、しっかり感もあります。
あたりは柔らかいのに、中に太い芯を持っていることが確かに伝わってきます。
どんなに荒れた道でもジョン・ロブの靴のように信頼に足る安心感に包まれます。
この乗り心地も2000万クラスならではのものです。
その昔、先輩ジャーナリストの方から1000万オーバーのクルマはやはり独特の世界があると言われました。
その後1000万オーバーのクルマを何台か試し確かにと感じたものです。
しかし上には上があるというか、この上の壁が2000万オーバーだと感じています。
このコンチネンタルGTの乗り心地はベンツのSクラスやBMWの7では得られないものがあります。
言葉で説明するのはなかなか難しいのですが、得も言われぬヌメリというか湿り、独特の高級感は軽いタッチのジャガーとも違いますし・・。
インテリアが醸し出すものもあるのかもしれませんが、英国車特有のこの自然な温もりは他では得難い愉しみです。
総評★★★★
その昔ベントレーはル・マンで5度優勝したスポーツカーメーカーでした。
ある年など優勝してそのままのクルマで帰っていったという逸話もあるほど丈夫で信頼性の高いクルマでした。また、よく言われるようにロールスロイスは貴族の乗るクルマで、ベントレーはスポーツも出来る金持ちのクルマといわれます。
コンチネンタルGTは確かにその資質があります。
アストンマーチンはより戦闘的ですが、こちらはGTの名の通り少し高めのシート高で実用にもなるグランドツアラーです。
セダンと違ってパーソナルな高級車と違って使うには数少ない貴重な選択肢です。
書きたいことはまだ山のようにあります。
簡単に一冊本が書けてしまいます。
ベントレーのような最高級車ともなれば、かくも雄弁で訴えかけてくるものが多いのだと感じます。
それだけエモーショナルな商品だということでしょう。
確かに2000万オーバーの価値があります。
乗り味に訴えるものの無い多くの日本車はもちろんSクラスでもこれほど人の心を動かすパワーはありません。
それにしても久しぶりに本物の高級車に触れると心が動きます。
セイコーやロレックスしか知らなかったオヤジがパテックフィリップを知ってしまったというか、禁断の果実の味を知り思い悩む。
それにしても、こんなクルマはそうあるものではありません。些細な3つの欠点はありましたがその魅力に比べれば取るに足らないものでしょう。
管野美穂がちょっと家事が苦手とかそんなものです。
確かに2000万オーバーの価値があります。
【スペック】全長×全幅×全高=4820×1945×1410mm/ホイールベース=2745mm/車重=2320kg/駆動方式=4WD/6リッター W12DOHC48バルブターボ(575ps/6000rpm、71.4kgm/1700rpm)/価格=2415万円