春だし、軽い麻のジャケットに衣替え
3月2日に発売されたばかりの新型レンジローバーに試乗してきました。
今回で4代目です。
新型のトピックは、SUVでは世界初となるオールアルミニウム製モノコックボディーを採用し、旧モデルより39%も軽く仕上げてきた事でしょう。
ボディーシェルだけで180kg、車重では今回試乗した、5リッターV8 NAエンジン搭載モデルで190kgも軽く仕上がっています。
本国にあるディーゼルモデルでは最大420kgも軽くなったといいます。
さてさて、一体どんな乗り味になっているのでしょうか?
スタイル★★★★
約10年ぶりのフルモデルチェンジなのですね。
そう考えると先代は最後までフレッシュさを保っていたと言えるのではないでしょうか?
新型のボディーサイズは、全長×全幅×全高=5005×1985×1865mm、旧モデルよりも全長で35mm、全幅で30mm拡大し、全高は15mm低くなっています。
ホイールベースは2920mmで旧モデルより40mm延長されています。
最近アナウンスされた新しいレンジローバースポーツの方は随所にイヴォークのテイストがちりばめられているのに対し、こちらは流石に伝統に沿ったもので、どこから見てレンジローバーたらん事を重視していますね。
それでもAピラーの角度は随分寝かされ、僅かに低くなった車高や前後の強められた絞り込みなどによってCd値は0.34、もちろん歴代で最も優れた値となっています。
デザインはランドローバーのデザインディレクターでありチーフクリエイティブオフィサーのジェリー・マクガバン。
フロントドアの縁のエアアウトレットやウィンドウでカバーされ、ブラックアウトされたDピラーなどの伝統を守りつつシンプルでフレッシュな造形にまとめています。
プレーンになったサーフェスに中には重厚さに欠けるという印象を持つ人もいるかもしれませんが、実際かなり軽くなっているのです。
私はとても上手くまとめたなと感じました。
内装★★★★☆
内装は基本的にモダンになった先代の印象を引き継いだものでクルーザーのような優雅さを醸し出しているのも先代と同様です。
質感も流石にいいですね。
メーターも同様に、液晶ディスプレイを踏襲しますが、新型ではより高精細になっています。
また操作系は新しいインフォテインメントシステムの導入でセンターパネルまわりのスイッチ類は50%も削減されているとの事です。
アクセスモード時の車高が先代比50mm低くなり乗降性が向上したドライバーズシートに腰を下ろすと、いつものポジションに「ああレンジだなあー」と思います。
インストゥルメントパネルの水平ラインとセンタースタックの垂直ラインで構成される見晴らしは伝統に沿ったもので安心感があります。
これは悪路では傾斜の目安にもなりますね。
ステアリングも同様に、オフロードでの微妙な力加減を調整しやすいように細身で三角形の断面をもったものとなっています。
ショルダーラインは低く、窓を開ければ容易に側面が見通せるコマンドポジションです。
またホイールベースの延長で後席のレッグルームが118mm以上拡大しているのも特長です。
今回からリア2座タイプの「エグゼクティブクラス」シートパッケージもオプションで用意されます。
これにはマッサージ機能搭載のフルアジャスタブルセパレートシートやクールボックス付きのセンターアームレストなどが備わります。
エンジン★★★★
試乗したのは自然吸気の5リッターV8(375ps/6500rpm、52.0kgm/3500rpm)です。
他には、スーパーチャージャー付きの5リッターV8(510ps/6500rpm、63.8kgm/2500rpm)があります。
トランスミッションは両方とも新開発の8段ATです。
本国ではスーパーチャージャー付きの3リッターV6も追加されています。
この新エンジンは、340ps/6500rpmと45.9kgm/3500-5000rpmで、先にジャガーの「XF」にも採用されたものと基本構造は同じです。
また来年にはこのユニットにモーターをアドオンしたハイブリッドモデルも設定される予定です。
これはCO2排出量169g/kmで、Cセグとさほど変わらない優れた数字となる予定です。
さて、NAのV8 5.0ですが、車重が軽くなった事もあってパフォーマンス的にはこれで十分な印象です。
というか、少し重いフィールとなるスーパーチャージャー付よりも回転が軽やかでこのボディに合っているようにさえ感じます。
そのきめ細やかな絹のようなフィールと穏やかなトルク特性は非常に高級感があります。
まるで風のような回転の上昇感は同じアルミボディのジャガーでも感じた事がありますが、まさかこの重量級のSUVで感じられるとは思いませんでした。
足回り★★★★
乗り心地の印象も軽やかです。ボディの軽さが足取りの軽さとなって感じられます。
当たりは非常に軽くハーシュネスらしきものは皆無です。
このまろやかさは今の硬くなったジャガーのXJをはっきりと上回ります。
もちろん大きな衝撃に対しては最も得意とするところです。
荒れた路面になるとどんな高級車も敵としません。
そしてハンドリングは最もこの軽量化の進化が発揮される部分です。
先代では特に下りのワインディングなどではその重さを意識しないわけにはいきませんでしたが、新型はセダン並みと言えば大袈裟ですが、ちょっとしたミニバン並みのペースなら十分に安心できます。
つまりボディが軽くなった事で相対的に重心が低くなり安定したコーナリングを堪能できます。
シャシーエンジニアリングマネージャーのロイド・ジョーンズ氏いわく「軽量化は省燃費のためでもあるが、オンとオフロードでのドライビングダイナミクスの革新でもある」といいます。
少し不満があるとすれば、直進でもうひとつビシッとしないことです。
僅かにローリング方向の揺れが出やすい印象です。
この感覚は初期のイヴォークでも感じました。
逆にディスカバリーではなんとしっかりした直進安定性なんだと感じましたから、もう少し煮詰めれば落ち着くかもしれません。
ただどのメディアを見てもこんな話は出てきませんね。
もしかすると個体差なのか?それとも広報チューンか?まあ、この僅かな安定性の話はともかくハンドリングは先代とは比較にならない軽快さです。
もしV6が追加されてそちらの方がハンドリングがさらに軽快で楽しかったらどうしようとか、かなりレベルの高いところでの心配はありますが、現状のNA V8 5.0バージョンでも不満に思うシーンはまずないと思います。
そして、オフの装備では新しくなった「テレインレスポンス2」には、路面状況を分析して、「オンロード」「草地/砂利/雪」「泥/轍(わだち)」「砂地」「岩場」の中から最適な走行モードを自動的に選択する「オート機能」が備わりました。
これはタイヤのグリップを1秒間に100回の速さで瞬間的に判断し、最適なモードを自動的に選んでくれるというものです。
スペックはホイールストロークが前260mm、後310mm、最低地上高は最大296mm渡河深度に至っては先代を200mmも上回る900mmとなっています。
総評★★★★
それにしてもボディの軽さってクルマの印象を劇的に変えます。
流石にこの絶対値になると普通のクルマからの乗換える人は分からないかもしれませんが、旧型から乗換えるユーザーなら圧倒的な違いを感じるはずです。
乗り心地に関してもちょっとテイストが変わりましたね。
それはアルミボディによるところもあると思います。
ここはもしかすると旧型の重厚な乗り味が好みというユーザーもいるかもしれません。
でも私はやはりこの大きなボディをこれほどストレス無く走らせる新型を推します。
もう少し熟成を期待したい部分もありますが、現状でもそのたおやかな乗り味は他に比べるものが無いほどです。
そのポテンシャルは確かに10年分の進化があると思います。
【スペック】ランドローバー・レンジローバー5.0 V8ヴォーグ:全長×全幅×全高=5005×1985×1865mm/ホイールベース=2920mm/車重=2350kg/駆動方式=4WD/5リッターV8DOHC32バルブ(375ps/6500rpm、52.0kgm/3500rpm)/燃費=5.8km/リッター(JC08モード)/価格=1230万円
(※この記事は2013年4月に書いたものです。有料版の記事の一部を加筆訂正し約1年遅れで配信しています。)