デビューは2013年1月のデトロイトショーです。
先代よりも大幅にサイズアップされたことがスポーツサルーンとして物議を醸し出しました。
エンジンはV6、3.0のSと今回試乗したV8、3.8リッターツインターボのGTSの2種、V6にはマグナシュタイア製の電子制御センターデフシステムを組み合わせた4WDモデルのQ4もあります。
スタイル★★★★
新型クアトロポルテのボディーサイズは全長5262×全幅1948×全高1481mmで、ホイールベースは3171mm。
従来型に比べるとホイールベースで11cm、全長で15cmも長くなり、サイズ的には「メルセデスベンツSクラス」や「BMW7シリーズ」「アウディA8」と同等です。
ボディーシェルの60%強をアルミ化するなどの改良が施されたこともあって、車重は前型と比べで最大100kg減となっていますが、スタイル的には間延びした印象はぬぐえません。
確かに少し寸詰まりのギブリと比べるとのびやかな印象もありますが、率直に言って先代のスリークかつ抑揚のあるシェイプされたフォルムが懐かしいです。
先代は室内も外寸の割にはタイトでしたが、それがかえってスポーツサルーンらしいというか、オーダーメイドのスーツのようにエレガントな雰囲気を醸し出していたように思います。
それでも4つ星なのはこのクルマが他の同クラスのクルマと比べてやはり圧倒的にスポーティーで獰猛なフォルムだからです。
サイドは確かなウェッジシェイプを描き、リアフェンダーの隆起も明瞭です。
斜めから見た時、Cピラーからリアフェンダーにかけての角度はサイズの割にキャビンを小さく取っていることが分かります。
カラーが豊富なのもいいですね。新型でも8色のボディーカラーが用意され、ホイールは19インチ〜21インチと3サイズ5種のデザインが設定されます。
またブレンボ製キャリパーのペイント仕上げも5色から選べるようになっています。
クアトロポルテは今もってフルサイズのセダンで最もスポーティーなモデルであることに代わりありません。
内装★★★
ここは残念な部分です。
例の時計は中央にありますが、インパネやシートのデザインは平凡になり、ウッドの質やレザーの質もはっきりとコストダウンの影が伺えます。
特にウッドパネルは日本車のようにテカテカとしたものになってしまいました。
先代の芸術的なデザインや手作り感は影を潜め、単なる工業製品に成り下がったかのようです。
サイズは流石にたっぷりとしています。
前席はレザーの12ウェイパワーシートです。
外環同様カラーバリエーションが豊富なのは流石にこのクラスのヨーロッパ車ですね。
シートは、標準レザーの他に3種類の表皮が選択可能で、もちろん中にはポルトローナフラウ社製のセミアニリン染めレザーも含まれています。
3171mmにも達するホイールベースのおかげで、後席のレッグルームも広大です。ここは確かに先代にはなかった部分です。
エンジン・ミッション★★★★
試乗したGTSのエンジンは新型3.8リッター直噴V8です。
これはV6同様、マセラティが設計し、フェラーリのマラネッロのフェラーリファクトリーにおいて委託生産され、マセラティの新しいグルリアスコ工場で組み上げられます。
アウトプットは530psと66.3kgm、オーバーブースト時にはなんとトルクは72.4kgmというスペックを誇ります。
ミッションはZFの8ATです。これはトルコンですが、シフトスピードは速くダウンシフト時の回転合わせも完璧です。
これによってもたらされるパフォーマンスは最高速度307km/h、0-100km/h加速4.7秒と文句なしの数値です。
美点はイタリア車らしい吹け上がりの軽さでしょうか。ツインターボのV8ユニットらしからぬレスポンスです。
その羽の生えたような軽やかなふけ上がりは、同じフェラーリV8ユニットを搭載した、その昔のランチアテーマ8.32を思い出させます。
その重量とフリクションを感じさせない夢のようなレスポンスです。
一方、不満はターボユニット特有のオーバーシュートが僅かに残ることと控えめになったそのサウンドです。
内外装もですが、ここも官能性の部分で言えば先代にかないません。
スタート時の演出やシフトダウン時のブリッピングなど確かにそれらしい演出はありますが、そのサウンドはどこか控えめでデジタルです。計算された演出を感じます。
確かに新型は大幅にパワーアップし燃費も20%削減されました。
しかしイタリア車、いやこのクルマに求めるであろうカスタマーにとって最も大切な官能性が薄れたのは残念です。
ちなみに、V6はギブリで経験済みですが官能性ではむしろV型6気筒の方に軍配があがるかもしれません。
軽いエンジンのふけ上がりやサウンド、高回転まで回した時のシャープさなどです。
足回り★★★★☆
ここはクアトロポルテの白眉ですね。
新型もこのサイズを全く感じさせないハンドリングを持っています。
50:50の静的前後重量配分は伝統です。
街中では流石にサイズを意識しますが、郊外ではそのエンジンの軽さと同じ感覚にまでボディがサイズダウンします。
つまり速度が増すにつれてスタビリティーが高まる感覚です。
これは多くのイタリア車に共通するものですが、特にこのクアトロポルテはその傾向が強いです。
ステアリングは正確になり繊細なコントロールの受け付けを開始します。
3メートルを超えるロングホイールベースのサルーンでこれほどの軽快感を持つクルマはドイツ車にはありません。
乗り心地も基本的にフラットで好ましいものです。
このクラスのクルマですからハーシュや不粋な微振動が無いのは当然ですが、ここもイタリア車特有の軽やかな足さばきを持っていて楽しませてくれます。つまりあたりが軽いのです。
ドイツ車のような粘着質の走りではなく空を駆けるような軽快感があります。
トレッドが広くキャビンが小さくアルミを多用した軽いボディという有利なコンストラクションもありますが、この乗り心地の楽しさはクアトロポルテを選ぶ理由になります。
総評★★★☆
新型はそのハードに於いて確かに時代の要求に応えたと思います。
新しいユーザー、つまりこれしか知らない人には十分な満足と楽しさを与えるクルマだと思います。
しかし例えば旧型のGTSのオーナーがこれに乗り替えるかと言われれば乗り換えないと思います。
かなりのクルマ好きである筈の旧型GTSのオーナーともなれば新型の内外装とエンジンに物足りなさを感じるのではないでしょうか?
少なくとも私なら旧型の程度のいい中古を探します。
新型は今だ魅力的ながら少し他のクルマに近寄ってしまったと思います。現行のマセラティならNAのグラントゥーリズモにより魅力を感じてしまします。
【スペック】ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5262×1948×1481mm/ホイールベース:3171mm/車重:1900kg(乾燥重量)※車検証記載値は2060kg/駆動方式:FRエンジン:3.8リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ/トランスミッション:8段AT最高出力:530ps(390kW)/6500-6800rpm/最大トルク:66.3kgm(650Nm)/2000rpm(オーバーブースト時:72.4kgm<710Nm>/2250-3500rpm)/タイヤ:(前)245/40ZR20
99Y/(後)285/35ZR20 100Y(ピレリPゼロ)/燃費:11.8リッター/100km(8.5km/リッター。欧州複合サイクル)/価格:1690万円