難解なジャガーネス
XFの登場ですっかり古く感じられるSタイプです。
今や中古車市場では随分手ごろな価格で取引されています。
●概要
99年のデビュー、エンジンはV6、3.0とV8、4.2、それにスーパーチャージャーを与えたRがありました。
当初、親会社であるフォードのリンカーンLSベースのシャーシということで、専門誌に酷評されるも2002年のビッグマイナーで内装とサスペンションを刷新。
一気に評判はよくなりましたが、もはや販売の方は・・・。
2004年にはV6、2.5が追加され、アルミボンネットを採用、フェイスはF・Rバンパースポーラーの形状が変更されるなど延命を図りましたが、今年ついにXFにその座を譲ることになりました。
↓Fスポイラーの形状は2004年から変更。写真のタイプR(V8、4.2リッター、402馬力!)はメッシュグリル&同色で精悍な印象となります。
スタイル★★★
デビュー当初は1820mmというXJと変わらぬ車幅による貫禄と、ファンには懐かしのマークⅡをモチーフとした丸目でなかなか魅力的でしたが、10年を待たずして古さが目立ちはじめました。
やはり革新的なチャレンジをしないといけないということでしょう。
遺産を食い潰す没落貴族ではいけません。
ただ風切り音の少ない高速は快適です。
ジャガーは昔からドアミラーの設計が上手いのか、かなりのスピードまでこのあたりからの音が出ないのはなかなかのノウハウです。
↓Rはアルミ風のインパネ&ハッキリとしたサイドサポートのバケットシートが特徴。メーターにあしらわれたリングは2004年のマイナー以降。
センターコンソールの大きさはジャガーの特徴ですね。
ナビは日本のデンソー製DVD(トヨタのソフトが使えます)。
タッチパネルは感度が鈍く使いにくいです。
内装も古いジャガースタイルです。雰囲気は流石ですが、ドアの内張りはプラスチックそのものですし、レザーの質もそれなりです。
決してロールス&ベントレー、アストンほどのクオリティーを期待してはいけません。
3分の1の価格ですから仕方ありません。
↓パイピングはソブリンのインテリアです。丸いルーフでリアのヘッドクリアランスは最小です。
↓Sタイプの後継、話題のXFです。流石にショーモデルからすると無難になりましたが、それでもカッコいいですね! クライスラーのようなヘッドライトやBMWのようなサイドのプレスラインを嘆く人もいますが、実際に見ると随所にジャガーの気品を感じます。タタになる前の最後のジャガーか?
↓リアはアストンマーチンのような迫力があります。クーペと見まがうほどです。
↓バックの邸宅は”我が家”ではもちろんありません。この垂れ下がったお尻のせいでトランクは狭いです。まあ実用車ではないのでいいのですが・・・。
エンジン★★★
スムーズさと静粛性は見事です。
フォードのV6を当時のセルシオをリスペクトしていたジャガーのエンジニアが、リファインしたものです。
V6、3.0で243psですが、車重が重くパワフルな感じはありません。
それでも、高回転まで回せばそれなりの咆哮とスピードを与えてくれます。
ミッションもフェイズ2ともいうべき2002のマイナーで、ZFの6速になりスムーズになりました。
足回り★★★
ここまで全て3つ★ですね。まとまっているというか、あまり面白くないというか・・・。
乗り心地はフラット感が足りません。
ドイツ勢との違いはこのあたりでしょうか?
英国の典型的なカントリーロードを流すには優雅でいいのでしょうが。
ハーシュネスの遮断も期待値に届きません。
特に標準タイヤのピレリP7000(古!)はトレッドが固く、常にコツコツきます。
ロードノイズの遮断も物足りません。
アルミのアームのためか大入力に弱いのも印象を悪くします。
フランス車のようにそういう時こそガッシリ受け止めて欲しいのですが、ボディ剛性も含め、華奢な印象です。
Rと初期の3.0スポーツにあった簡易アクティブ・サスたる「CATS」はいいのですが。
とにかく、ジャガーというと正確でシュアなステアリングを幹としたフロントを軸に、リアは多少のピッチングを許す、XJのあのしなやかな猫足を期待してしまうのですが、Sは少し中途半端です。
Sタイプにどう耳を澄ましてもジャガーライドは感じられないのです。
オシリに神経を集中させ、ダンパーの特徴的な動きを感じ取ろうとしても今やリアのそれは常識的な動きしか示しません。
まるで少し前のドイツ車になりたがっていたフランス車のようです。
ハンドリングもはっきり言ってイマイチです。
けっこうニュートラルで、コーナリングスピード自体も高いのですが、全般にスタビリティが不足しています。
特に高速コーナーが怖いです。妙にナーバスです。
100キロオーバーのコーナリングではほんの少しステアしたつもりでも切り過ぎてしまい常に修正舵を必要とします。
これはステアリングが軽いからという問題ではなく、F・サスのジオメトリーの問題ではないかと思います。
ストローク時のアライメントをトーイン方向に振っているのか、少しの舵でもFのアウト側が縮みはじめた瞬間、急にゲインが立ち上がり切れ込んでしまうような挙動をみせます。
そしてその感覚が一定でないので、毎回ステアが1発で決まらない。急に切れ込んでいく感じで、一定舵角でのコーナリングが上手くいかないのです
プレステのグランツーリスモみたいにコーナリングの途中で何度も切り増したり戻したり修正が必要なのです(下手なだけか?)。
でも、評論家の大田哲也氏も同意見です。
いわく「どこかでサボっているやつがいる!」そうです。
(追記)
スプリングを5%固く車高を1センチ落としてみました。
すると走りが激変しました!
高速コーナーの不安な挙動が一掃され、乗り心地さえ良くなりました。街中でもピッチングが減り、安定感が増しました。ステアリングの正確性まで増した感じがします。
このあたりが本来のセッティングかもしれません。
↓フロントは旧マークⅡへのオマージュですが、今となると「笑うセールスマン」ぽい?
総合評価★★★
やっぱりこうなりますね。★3つ!
分かりやすい欠点もいくつかあるものの乗るにつれいい面も分かってきました。
丸みを帯び、情感に満ちたスタイリングも場所によっては似合います。
ハイスピードでも静かで安楽な車内で、少し緩いボディが織り成す、ゆったりとした周期に身を任せていると、ドイツ車で高速走行している時の思考とは違う事に気付きます。
初春の穏やかな木漏れ日と風のように「シュンシュン」とスムーズに回るV6エンジン。
先のシャープなステアリングも丁寧に扱ってやればそれなりにスムーズな回頭性を見せます。
そしてこのようにSと対峙し、頭と身体で繊細に扱ってやるとSは初めて線の細い細い反応で訴えかえしてくれます。
XJのネコ足のような分かりやすさは無いものの、このボディの緩さと繊細なステアリングのコンビは常にそれを意識させられるという意味においてジャガーネスではないのかと。
瀟洒なインテリアに目をやりながら繊細なアクセルワークとステアリングワークによって初めて得られる微かな旋律を求めてのドライビング。
Sにも存在したジャガーネスは実に難解なのですが・・・。