理詰めで攻めるが何かが足りない
先週お伝えしたように1週間ほど新型A8(2010年3月デビュー)にじっくりと乗る機会があったのでワインディングや高速など色々なシーンで試してみました。
ただ最新のA8(2013年モデル)はこのV8、4.2(372ps/6800rpm、45.4kgm/3500rpm)に変わって、V6、3.0ターボ(310ps/5,500-6,500rpm、44.9kgm/2,900-4,500rpm)とV8、4.0ターボ420ps/5,000-6,000rpm、61.2kgm/1,500-4,500rpm)になっています。
そのあたりを考慮して読み進めていただければと思います。
スタイル★★★★
アウディのアイコンであるシングルフレームはA8では流石に大きく、そのスタイリングを特徴付けます。
アクの強さはありますがこのクラスではそれが許されるのでこれは良しとしましょう。
フォルムはアウディそのものですね。
リアをキュッと絞ってフェンダーにボリュームを持たせる。
特にリアからはそのサイズ(全長×全幅×全高=5137×1949×1460mm/ホイールベース=2992mm)の割りに小さく見えるスタイルです。
ちなみにロングホイールベース版のLボディは全長×全幅×全高=5267×1949×1471mm/ホイールベース3122mmとなりメルセデスベンツのSクラスのロングと比べても大きなものとなっています。
ライトも特徴ですね。
10個のフルLEDヘッドライトは宇宙人のアイラインのように印象的です。
サイドパネルも逆にRを付けるという新しい手法によってシャープな印象と未来的な印象を出しています。
Cd値はわずか0.26と優秀です。
内装★★★★
ここはアウディの強い部分ですね。
Sクラスや7シリーズと比べてもその質感はもちろん華やかさといったエモーショナルな部分でも勝っていると思います。
試乗車は標準仕様でしたが「アウディ デザイン セレクション」が装着されたクルマでは白のラインやパイピングが入ったものになります。
好みは「バラオブラウン」という茶系のレザーですね。
これは艶消しウッドとアルミ製パネルのダッシュボード、アルカンタラ張りのルーフ等が備わりいっそう豪華な印象になります。
夜になるとLEDの照明(白、アイボリー、ルビー&白の3種類からMMIで選べる)が車内のあちこちに点灯するのも楽しいアトラクションです。
また良い所は、ダッシュ上部の枠が太く、その内側で幅を感じるせいかボディが実寸以上に小さく感じる事です。
これは7シリーズと乗り比べてみるとはっきりと分かります。
先代もそうでしたが、実際には大きなボディにもかかわらず、運転しているとまるで1クラス小さな車に感じます。
これは4WDとしては非常に良く切れるステアリングによって小回りが利くことも関連しています。
不満は先代同様、右ハンドル車の左足もとの狭さです。
いくら4WDとはいえこれほどのボディを持ちながら左足のスペースに余裕がないというのはアウトです。
またパドルシフトの部分がプラスチックなのにも興ざめです。
こういう普段から触る機会の多い部分の質感にはこだわって欲しいものです。
やはりシフト時にはアルミやマグネシウムなど金属の質感を手に感じたいものです。
その他の部分に異常にこだわっているだけに意外です。
またシフトレバーのパターンが不明瞭で例えば切り返しなどで素早くD-Rを移動させたい場合など慣れが必要です。
ブラインドで出来るようなものではありません。
またドライブバイワイアのレスポンスが悪いのも印象を悪くしています。
こういう走りの部分のレスポンスが悪いとせっかくのスポーティーな感覚が殺がれてしまいますね。
エンジン★★★★
エンジンは4.2リッターV8、DOHC32バルブ(372ps/6800rpm、45.4kgm/3500rpm)です。
アイドリングストップ機能はありません。
フィールはちょっと重々しいですね。
もちろん踏めば走りますが、低回転では重めのステアリングとも相まってせっかくのアルミボディの軽快さが表現できていません。
それでも回転感は流石にアウディ特有の粒の揃ったもので高級感があります。
さらに回せばだんだん軽やかになりサーっと結構な勢いで加速していきます。
8速のトルコンATも実にスムーズで不満はありません。
さらに「ダイナミック」モードを選択すると、エンジン、ミッション、パワステ、エアサスの設定が変更され、ぐっと動きがシャープになります。
ステアリングはさらに手応えを増しミッションは高回転をキープします。
サウンドは上質ですがSシリーズではありませんから特別スポーティーな演出はありません。
それでもこれはノーマルグレードのLクラス高級車ですからこのチューンは間違いではありません。
ちなみに最新版はS8同様4.0にダウンサイジングされターボが組み合わされます。
パワーは372ps/6800rpm、45.4kgm/3500rpmから420ps/5,000-6,000rpm、61.2kgm/1,500-4,500rpmと大幅にアップしています。
低速からトルクがあり2トン弱のボディをスタートから軽々と軽快に走らせるそうです。
ちなみにS8はさらにチューンが上がり520ps/5800-6400rpm、66.3kgm/1700-5500rpmとなっています。
足回り★★★★
乗り心地は先代よりも随分ソフトになりました。
アルミの悪癖を感じないばかりかまるでメルセデスのように直接的なショックを一切感じさせないものになっています。
まあそれで僅かにソリッド感というかスポーティーさは失われましたが、このグレードでは正しい方向でしょう。
それでもアウディ・ドライブ・セレクトを「ダイナミック」に合わせると足は引き締まりボディが小さく感じます。
ワインディングでの限界は非常に高く、高い速度域なのにコントロールの幅も広いです。
現代の高性能タイヤはもちろん無粋なスキール音は一切発しませんが、グリップの状態は良く伝えます。
スライドし始めてからも一気にブレイクするような感覚は全くなく、アクセルを少し緩めるだけでインに張り付きます。
もしアウト側に余裕があればさらにアクセルを踏めは前後バランスの取れたスライドが余裕を持って楽しめます。
このクルマのフルタイム4WD、クワトロシステムは新開発の機械式センターデフを使ったもので、通常時には前40:後60と、やや後ろ寄りに駆動力を配分します。
さらに状況に応じて60:40~20:80の範囲で可変してくれます。
基本的に電子制御は介在せず、メカニカルですが、Uターンなどでも先代のようにデフの音は発生しません。
またこのサイズを超えた操縦性はASF(Audi Space Frame)と呼ばれるアルミ製スペースフレーム構造のボディ構造によるところも大きいと思われます。
車重は試乗車で1960kg。
スペースフレーム構造のアルミボディは231kg(ロングで241kg)しかなく、通常のスチールモノコックに比べて約40%軽く出来たといいます。
つまりクアトロによる重いデフと絶対的に軽いボディのコンビは相対的に低重心となり、S時の切り返しなどでもおつりの来ないコーナリングを楽しめます。
このクラスでこの感覚を味わえるクルマはそうそうありません。
アウディらしい技術による前進、理詰めのコンストラクションはアルミボディのA8で完結します。
総評★★★☆
ここまでオール4つ星なのに総評は3.5です。
つまりバランスが良すぎて物足りない。
言いがかりのように聞こえるかもしれませんが、高級車に必要なのはある種の過剰であったりアンバランスが故のトゲだったりするのかもしれません。
私は先代のS8に乗っていますが、実は今回の試乗に当たって浮気心が出たらどうしようって思っていました。
でもその心配は杞憂だったようです。
今回クルマを返却して自分のクルマに乗り換えたとたんに「なんてスポーティーで楽しいんだ」って思いました。
つまりステアリングは軽く足も締まっています。
5.2リッターのV10は低速で唸り、高回転では乾いた音を残して豪快に加速します。
乗り心地も決して不快ではありません。
ボディはやはり小さく、重いコートを脱ぎ捨てたかのような軽快さです。
もちろんグレードが違うといえばそれまでですが、私には新S8であったとしても同じだったと思います。
新型はやはり大きく、走りも丸くなっていて率直に言ってソリッド感に欠けます。
A8はアルミボディにクアトロシステム&エアサスを与え機能的に最高を目指しています。
実際FRのSクラスや7シリーズと比べ悪天候時のアドバンテージはもちろん普段の安定性や快適性も上だと思います。
ただこの4.2グレードはどこかまとまり過ぎているのか楽しさに欠ける部分があったようです。
私なら3.0に「アウディ デザイン セレクション」と80万円のACCやナイトビジョン等をセットにした「プレセンス パッケージ」を装備して乗るか、S8を選びます。
【スペック】4.2 FSI クワトロ:全長×全幅×全高=5137×1949×1460mm/ホイールベース=2992mm/車重=1835kg/駆動方式=4WD/4.2リッターV8DOHC32バルブ(372ps/6800rpm、45.4kgm/3500rpm)1160万円
(※この記事は2012年12月に書いたものです。有料版の記事の一部を加筆訂正し約1年遅れで配信しています。)