ゴルフやルポの肥大化に伴い原点に返ったシンプルな小型車の登場を期待されていたVWの回答ですね。
VWの最小モデルとなります。
up!の日本でのラインナップは、ベーシックな3ドアのmove up!(同社は2ドアと呼ぶ)149万円!から。
量販グレードは、5ドア(同4ドア)の「move up! 4ドア」で、168万円。
クルーズコントロール、15インチのアルミホイールなどを装備する豪華版「high up!」が183万円です。
スタイル★★★★☆
ポップなスタイルが印象的なクルマですね。新しさを感じます。
スマホを意識したというこの斬新さは国産車にはやはりなかなかないものです。
デザインコンセプトは、「シンプル&クリーン」。
シンプルで機能的なことを求めたといいます。
デザイン・プロデューサーはご存知、ワルター・マリア・デ・シルヴァ(Walter Maria de Silva)さん。フィアット、アルファ・ロメオなどを経て、1999年にVWグループのセアトのデザイン責任者に就任以来VWデザイ
ンを統括しています。
フロントは小型車らしく「笑顔」をモチーフとした愛らしいものです。
シンプルな面構成の真ん中に大きなVWのエンブレムがアクセントになっています。
リアビューは個性的でハッチゲートは大きな黒いガラスを備え、確かにスマートフォン(アップルの)のように見えます。
サイドビューなどはVWらしくシンプルなラインで構成されているので、この前後の遊びがなかったらこのサイズでは存在感の薄いモデルになったかもしれません。
Cd値は0.325と優秀。
実に上手いデザインだと思います。
↑ボディ同色のインナーパネルやマットの花柄も可愛いですね。
内装★★★★
内装もツートン(仕様により)になるシートやダッシュに張られるカラーパネルなどポップで安っぽい感じはまったくありません。
このあたりはルポよりもはっきりと上手でクラスレスな贅沢感さえ感じさせてくれます。
ヘッドレスト一体型シートは薄いですが固めのクッションでしっかりとした造りになっています。
一見平板な形状ですが、サポートも十分。シートリフターと上下にチルトするステアリングで完璧なポジションをとることが出来ます。
リアシートのスペースもそのサイズからは想像できないほどで、十分に実用になるものです。
4人乗りですから幅も気になりません。
細かいところでは電動格納式のドアミラーがなかったり、パワーウィンドーのスイッチがドライバー側には助手席のがないなど、かなり割り切ったコストダウンの跡も見えますが、これもむしろ気持ちいいですね。
ちょっと前のメルセデスのロワーグレードようでわありませんか!
時に小型車のこうした潔さは、卓越したデザインを得て逆に精神性の高さへと昇華します。
エンジン★★★★
エンジンは、1リッター直列3気筒NA(75ps/6200rpm、9.7kgm/3000-4300rpm)のみです。
このエンジンはバランサーを持たないのが不思議なほどスムーズです。
音も嫌な雑音がなくちょうどいい感じです(ゴルフ5ぐらいのレベル)。
低速から力があり十分な加速を見せる上、高速の伸びも大したものです。
一方、全車に組み合わされるシングルクラッチ式の「ASG」と呼ばれるロボタイズドMTはやはり好みの分かれるところでしょう。
セレクターのポジションは「D」「N」「R」のみで、「P」がないシンプルさ。
30kgを切る軽さがメリットですが、やはり加速時の失速感は免れず「ルノー・トゥインゴ」「フィアット500」シトロエンのセンソドライブなどに慣れている人には楽しめると思いますが、一般には薦めにくい感じです。ただスタートや変速自体はスムーズでヒルホルダーも付いているのは救いです。
ただ、このミッションの弱点は燃費効率だと思います。
JC08モードの燃費は、全てのモデルで23.1km/リッターとなっていますが、実測は15 km/リッターぐらいでしょう。
カーグラフィックの11月号によると新型カローラ・アクシオの17.5km/リッターに対しup!はリッターカーにもかかわらず1割がた悪いとあります。
これは低回転を保つCVTに対しASGの回転が高くなり且つ空走時間が長い事を意味します。
ダイレクトなマニュアル形式のメリットよりもシングルクラッチでは燃費面のデメリットの方が大きいという事でしょう。
ちなみに2015年のマイナーで追加されたアイドルストップも気にならない程度には洗練されていました。
足回り★★★★★
ここは予想外のうれしい驚きです。
up!のポップな外装を見てスマートみたいな別物と判断してはいけません。
ここはまんまVWそのものです。
つまりボディ・内装はミシリとも言わず乗り心地は重厚にしてフラット。
ステアリングは小型車とは思えない落ち着きを持っていますし、ブレーキも信頼に足るものです。
とにかくマーチやミラージュといった日本のリッターカーとは比べ物になりません。
ボディやドア・内装の質感もですが、なにより走りに安心感と楽しさがあります。
また「up!」全車には、この価格にして30km/h以下で走行中に前方の障害物を検知、衝突時の被害を軽減する「シティエマージェンシーブレーキ」が与えられるのもトピックです。
総評★★★★
それにしても小さなクルマは楽しいですね。
中でもしっかりとしたupは走りをダイレクトに感じる事が出来ます。
路面やエンジンの状態を感じながら精一杯走る楽しさはよく出来た小型車に与えられた特権です。
up!は確かにその全てを持っています。
しかもこれまで良く出来ているけどデザインや内装がつまらないといわれたゴルフと違ってup!のキャラは小型車ならではの愛嬌も備えています。
こんな小型車を毎日使い倒す生活というのはきっと楽しいと思います。
この実用的ながら趣味性も備えるライバルは、残念ながら国産には見当たらずフィアット500やパンダといったところでしょうか?
欧州にある5MTが日本に入ってくるのを待つのもいいかもしれません。
【スペック】high up!(ハイアップ!):全長×全幅×全高=3545×1650×1495mm/ホイールベース=2420mm/車重=920kg/駆動方式=FF/1リッター直3DOHC12バルブ(75ps/6200rpm、9.7kgm/3000-4300rpm)/価格=183万円
(※この記事は2012年9月に書いたものです。有料版の記事の一部を加筆訂正し約1年遅れで配信しています。)