ハイブリッドでスポーツは難しい!
派手なテレビCMに触発されて試乗に出かけてみました。2013年5月16日にデビューしたニューISです。
ISはスポーツセダンというキャラのためレクサスの中で唯一ハイブリッドモデルが存在しないモデルでしたが、今回から300hがラインナップされました。またレクサスの中で唯一、海外向けにディーゼルモデルをラインナップしていましたが、新型ではそれを廃止しヨーロッパでもハイブリッドで勝負することになりました。
なので、今回のハイブリッドはヨーロッパでもディーゼルと勝負出来るレベルのスポーツ性と燃費性能を目指した、といいますが、果たしてその仕上がりやいかに?
スタイル★★★★
初代は2005年デビューですから随分長く持ちましたね。
それはセダンとしては大胆で明快なウェッジシェイプのフォルムを持っていたからだと思います。
ヨーロッパ車にも負けない塊感というか存在感は今でもフレッシュな印象を持つほどに見事なものでした。
新型のボディーは全長が75mm、全幅が12mm拡大されました。
フォルムが少し間延びした印象を受けるのはこの拡大と複雑なディティールの処理によるものでしょう。
ライトの前にアロー形状に入れられたLEDランプや、複雑な形状のサイドシルからテールレンズへと伸び上がっていくライン、リアバンパーの極端な跳ね上げの処理など、その一瞬かなり違和感を覚える処理によるものでしょう。
まあ好き嫌いはともかく、フロントのスピンドルと同様、強いインパクトを持っている事は確かです。
またフロントはFスポーツではグリルがフルハニカムになりバンパーの形状も異なります。
ただ全体としてはプレミアムクラスに相応しい品質感を持っていることもあり、実物の印象は悪くないです。
その立体的な造形は光による陰影で表情を豊かに変えます。
作りも精緻で、リアバンパーのラインがテールやサイドと繋がっているなど新しい試みも見られます。
まあそこを無理に繋げたが故の破綻や違和感も残るのですが、品質感がそれを補い、妙なアクのようになっているのはこのクラスなりの遊びとしておきましょう。
内装★★★★
内装も先代に比べるとぐっと品質感が増しました。
リモートタッチはサイズや操作感もいっそう洗練され、操作するだけで気持ちのいい高級感が感じられるほどのものになりました。
LSなどより全体にサイズが小ぶりな事もあってより精緻な感じも出ています。
メーターナセルにレザーが張られたのも大きいですね。
試乗車のFスポーツではシートがボルドーぽい赤革のシートとなっていましたが、メーターやドアの黒の革の部分は赤のステッチが入っています。
インパネのデザインはGSなど最近のレクサスの文法通り水平基調でまとめられています。
メーターは液晶でFスポーツではLFAと同じようなシングルメーターでスポーツモードにすると回転計になります。
後席はホイールベースが同時に70mm延長されたこと、前席シートバックの形状見直し等々も相まって、前後長が95mmも大きくなり、レッグルームは85mm拡大されています。
3シリーズやCクラスにも匹敵する広さですが残念なのはヘッドクリアランスがミニマムな事です。
リアの頭上は身長177センチの私が座ってギリギリです。
トランクも広くなっています。
このハイブリッドではニッケル水素のバッテリーをラゲッジルームのフロア下に収めますが、リアサスペンション・コンポーネントの配置を見直したことによってフラットな荷室を実現しています。
容量はハイブリッドでも従来比72リッター増の450リッター、ガソリンモデルでは480リッター(+102リッター)増加しています。さらにハイブリッドをむすべてのモデルにトランクスルー機能が備わっています。
ここもヨーロッパでディーゼルと真っ向勝負をしなければならないこともあってハイブリッドだから、という言い訳は出来ないという意気込みが感じられる部分です。
エンジン★★★★
パワートレインは3種類になりました。
「IS250」には従来通りのV型6気筒2.5リッター直噴エンジン+6段AT。
「IS350」には同3.5リッターユニットに新たに8段ATを組み合わせています。
スペックは2.5リッターが(215ps/6400rpm、26.5kgm/3800rpm)、3.5リッターが(318ps/6400rpm、38.7kgm/4800rpm)、そして新設定の「IS300h」は、クラウンと同じ新開発の直列4気筒2.5リッター直噴のアトキンソンで(178ps/6000rpm、22.5kgm/4200-4800rpm)+交流同期電動機(143ps、30.6kgm)、システム出力としては220psとなっています。
ちなみにノーマルエンジン車にはアイドリングストップの装着はなく(2年後のマイナーで新型のエンジンが投入される予定?)JC08モード燃費は、IS250は11.6km/L、 IS350は10.0km/Lにとどまるのに対しIS300hが23.2km/Lです。
IS250.350には今回からサウンドジェネレーターも装備されています。
250は相変わらず爽やかなスポーツエンジンですね。
パワーが適度で音も良くなりました。
これで回転にもう少し高級感が伴えば楽しいと思います。
350も豪快なエンジンでこれが一番スポーティでISのキャラに合っています。
そして注目のハイブリッドですが随分と自然になりました。
モーターのアシストもあってパーシャル時のパワーも十分、静かでトルクのあるエンジンのフィールです。
またミッションもリニアで意のままになる感じです。
ただ本格的に走ろうとすると物足りない部分も出てきます。
つまりアクセル開度を深くすると“ビーン”というエンジン音が耳につきます。
音はやはり4気筒ですね。
高速になると力強さも不足します。
もちろん「HS」や「CT」とはレベルが違いますが、5000rpm以上で伸びが鈍り、あとは待つだけになります。
このあたりは320dなど良く出来たディーゼルと勝負するには難しいかもしれません。
BMWがハイブリッドのアクティブハイブリッド3で3リッター直6、DOHC24バルブターボ(306ps/5800rpm、40.8kgm/1200-5000rpm)+モーター(54ps、21.4kgm)というシステムを与え、ベースエンジン単独でも魅力のあるエンジンを積んでいるのも高速・高負荷でハイブリッドでもスポーツ性と高級感を損なわないためです。
モーターはあくまで低速のアシストとして燃費と高級感の演出に使っています。
いっぽうブレーキのフィーリングは自然になっています。
もはや回生ブレーキの存在はほとんど感じません。
足回り★★★★☆
ここは今回一番伸びシロが大きい部分かもしれません。
特に乗り心地ですね。
先代の硬さがすっかりと取れて上質でシルキーと表現して差し支えのないレベルになっています。
このスムーズで高級な乗り心地が新型ISのトピックですね。
レクサスの名に恥じぬものになっています。
ちなみにFスポーツは全車18インチタイヤを装着しAVS(減衰力可変ダンパー)が与えられています。
確かに17インチの方が乗り心地はいいですが18インチも余裕で履きこなしています。
ボディーの剛性アップもかなりのものです。
スポット溶接箇所を増やし、「LS」から先に採用されたレーザースクリューウェルディング、接合面への接着剤の塗布といった新しい生産工程が採り入れられています。
ここはレクサスの基準を超えるぐらいの感触です。
ハンドリングは250が軽快で楽しいですが、バッテリーを荷室下に積むIS300hも、おかげで前後重量バランスに優れ、特性は最もニュートラルです。
350のFスポーツには可変ステアリング(VGRS)、後輪操舵(そうだ)を統合制御するLDH(レクサスダイナミックハンドリング)を加えた専用サスペンションを備え、さらに走行性能を追求した仕様もあります。
ここの最大の問題は電動ステアリングがまだまだフィールを伝えないことです。
せっかくの足回りをこのステアリングが生かしきれません。
BMWなどに比べると限界のつかみ易さやクリップの狙いやすさなどが違います。
このステアリングフィールだけでだいぶ安心感をスポイルしていると思います。
総評★★★★
受注の7割がハイブリッドだそうです。
しかもそのうちの4割以上がFスポーツ。
しかしエンジンの項で述べたようにスポーツモデルたるISに何故ハイブリッド?という思いはやはりぬぐえません。
やはり走る楽しみで言えば350、250、300hの順ですね。
しかし経済性を考えると300hが売れるのもわかります。
唯一エコカー減税対象でガソリン代やリセールを考えると300hがベストバイです。
でも経済性を考えるなら「HS」もありますし、もっと言えばレクサスである必要はありません。
また細かなところではオプション品の選択の自由度に関しても疑問があります。
プリクラッシュセーフティシステムは全車に装着可能ですが、「レーンディパーチャーアラート」「ブラインドスポットモニター」は本革シートとのセットでないと標準グレードには装着できない設定になっています。
レクサスともあろうブランドが本革シートなどを付けないと最高の安全性能を得られないというのは疑問ですね。
レクサスのようなプレミアムブランドで、優先されるべきは安全装備のはずです。
今回のISは内外装や足回りにかなりの進化を見ましたが、やはりハイブリッドとスポーツ性のマッチングは疑問です。
細かな仕様などもBMWやベンツと勝負するにはもっと煮詰める必要があるように感じました。
ISは素性がいいだけに今後の熟成に期待です。
【スペック】IS300h“バージョンL”:全長×全幅×全高=4665×1810×1430mm/ホイールベース=2800mm/駆動方式=FR/2.5リッター直4DOHC16バルブ(178ps/6000rpm、22.5kgm/4200-4800rpm)+交流同期電動機(143ps、30.6kgm)車両本体価格:553.4万円
(※この記事は2013年5月に書いたものです。有料版の記事の一部を加筆訂正し約1年遅れで配信しています。)