今回のメルマガ「雑誌に書けないクルマの通知簿」Vol.100は
「祝!創刊100号記念!」
フェラーリF12ベルリネッタ
史上最強のフェラーリ
フロントエンジン・フェラーリのV12ってその歴史からしてロマンチックで憧れますね。
初めてフェラーリの名を冠したモデルは「125スポーツ」で、フロントエンジン、V12気筒118馬力でしたし、その後登場した「166」はル・マンで初めてフェラーリが優勝したモデルでミッレミリアでも優勝しています。
その後も「250・275.330.375MM」といった連綿と続くFR&V12レイアウト・フェラーリの輝かしい歴史は語るまでもないでしょう。
フェラーリにとってFR&V12レイアウトは正にメインストリーマーです。
近年でもV12エンジンを搭載した「575マラネロ・599」といったモデルはミッドシップフェラーリよりも少し高級でGT(グランドツアラー)的な性格を与えられたモデルとして続いています。
このF12ベルリネッタは599の後継として昨年3月6日のサロン・アンテルナショナル・ド・ロト(ジュネーブモーターショー)でデビューしたフェラーリのフラッグシップモデルです。
スタイル★★★★
最初に写真で見た時の印象は「ちょっとうねり過ぎと言うか、抑揚が付き過ぎてくどいかなー」なんて感じていました。
特にその「エアロ・ブリッジ」と呼ばれるボンネットのスリットや、それに続くサイドスリット、そしてそこから跳ね上げられるようにウェッジを強調したサイドのキャラクターラインにも無理を感じましたし、ボリュームたっぷりのフロントに比べ、コンパクトにまとめられたリアスタイルとのバランスにも疑問を感じていました。
F12のデザインは、フェラーリ・スタイリング・センターとピニンファリーナのコラボレーションよるものと言われています。
実際「車体前方3分の2は、ピニンファリーナの空気力学的フォルムの流れをくみ、後部3分の1はフェラーリ・スタイリング・センターの特徴が出ている」とアナウンスされています。
ディメンションは全長×全幅×全高:4618×1942×1273mmで599のそれよりそれぞれ47、20、63mm小さくなっています。
ホイールベースも2720mmで30mmマイナスとなっています。
ボディはオールアルミ、12種類のアルミ合金によって構成される凝ったスペースフレーム・シャーシとボディシェルからなっています。
結果、総重量は1630kgとなり、599より80kgも軽くなっています。
ちなみに、最大出力700psのランボルギーニ「アヴェンタドール LP700-4」と比べても約91kg軽く仕上がっています。
特徴的な「エアロ・ブリッジ」と呼ばれるボンネットの両サイドにあるインテークは前面の空気を車両上部から左右の振り分け、そのまま側面に誘導しより多くのダウンフォースを発生させる機能をもっています。
結果、ダウンフォースは13%向上し、空気抵抗は3%低減しています。ダウンフォースは200kmで123kg、Cd値は0.299となりました。
ちなみに、のレクサス「LFA」のCd値はリアウイング格納時で0.31です。
アルファのような表情のテール下部にあるカムテール・リアディフューザーも効果を発揮しているようです。
そしてこうした予備知識を元に対峙した実物のF12は確かに写真で見る印象を覆しました。
ホワイトパールの塗装も良かったのかもしれません。
599よりもシェイプされ、きりりと引き締まったフォルムはアスリートの筋肉を持っていました。
不釣合いと感じていた前後バランスも安定感につながり、件のサイドの抑揚もフラッグシップ・フェラーリに相応しいエレガンスに華を添えていると感じました。
本物の女優が実際に会った時に発するような圧倒的で艶かしいオーラをやはりフェラーリは持っています。
フェラーリとしては5つ★ではないかも知れませんが、実物のF12ベルリネッタからは新しいピニンファリーナ・フェラーリのエレガンスも確かに感じられました。
内装★★★★★
流石に品質感は文句ありません。
近年のフェラーリの内装は高級です。
そしてデザインはF-1がモチーフですね。
ステアリング・ホイールに走行中のほとんどすべての機能を集約しています。
これはリアルスポーツとして正解でしょう。
ステアリングから一切手を離すことなく操作できる事はハイスピードでは安全に繋がりますから。
実際このまったく新しいオンボードエクスペリエンスは慣れると極めて使いやすいです。
走行モードをWet、Sport、Race、 CT Off and ESC Off.に切り替えることができるマネティーノ・スイッチをはじめ、スターター、ウインカーやワイパー、ダンパーコントロール、ライトなどのスイッチがステアリングに収められています。
試乗車ではオプションのカーボン・ステアリング(パドルもカーボンとなり68万円)が与えられていました。
これは高価ですが、機能を追加する事で重くなってしまったステアリングのフリクションを相殺する効果的なオプションでもあります。
デザインはダッシュなども厚みを削ぎ落とし薄くまとめられています。コンパクトなセンターブリッジにはR(リバース)やA(オートモード)といったシフトセレクターとハザードやローンチコントロールなどのボタンが分かり易く配置されています。
試乗車はオプションで天井まで赤でコーディネートされていました。シートや絨毯なども数多くの魅力的なカラーが用意されています。
こうしたフルオーダーによる好みを反映したコーディネートを楽しめるのも高級車ならではの楽しみですね。
エンジン★★★★★
史上最強のフェラーリたるF12搭載されるエンジンは自然吸気!のV12で6262cc、圧縮比13.5:1です。
最高出力は8250rpmという高回転で740psを発揮します。
最大トルクは6000回転で70.3kgm!このパワーはF-1と同じですね。ちなみにCO2排出量は599比-30%です。
それにしてもこの性能をNAで出してくる辺りがAMGなどとの違いです。
この全域トルクフルで超レスポンシブル&リニアなユニットの快感を知ると、ちょっとターボに戻りたくなくなります。
0-100km/h加速のオフィシャルタイムは、3.1秒。最高速340km/hオーバー。
ライバルのアヴェンダドールは0-100km/h加速は2.9秒以下、4WDゆえスタートダッシュでは敵いませんが、軽量なボディと70馬力のアドバンテージで0-200km/hでは逆転します。
ちなみにフェラーリ社が所有するテストコース、フィオラノサーキットでF12が出したラップタイムは1分23秒で、時代が違うとはいえこれはなんとあの「エンツォ」の記録を2秒も縮めているといいます。
いよいよドアを閉め、ステアリング左下の赤いスターターを押すと「バフゥオン」と盛大にV12ユニットが目覚めます。
しかし、ここでなんと雨がポツポツト降ってきたではありませんか!
何たる不運!FRの740馬力を雨の市街地で全開にする勇気は流石にありません。
とりあえずマネティーノ・スイッチをレースからスポーツに落とし(レインモードというのもありますが、それを使っては試乗オヤジの名が廃る?というか、流石にそれはもったいないので)ステアリング右のワイパーとウインカーを押して慎重にスタート。
しかし10mも走るとスロットルさえ気を使えば普通に走るのは何も気を使う事が無いことが分かります。
GT的に高めのポジションもあって視界はいいですし、599に比べ平均で20パーセントも速く反応するという7速のデュアルクラッチ式ギアボックスは、マネッティーノ・スイッチがどのモードに入っていてもシームレスでスムーズな走りを約束してくれます。
しかし、レブが3000rpmを超える辺りからは音が一段高くなりアクセルとリアタイヤは直結したかのように固まります。
気をつけなくてはいけないのはココからです。
ココからは濡れた路面ゆえ、少しでもアクセルを深く踏むとリアタイヤは直線でもお構いなしにホイールピンします。
もちろんトラクションコントロールはオンにしていますし、駆動力を適正に制御するE-Diffシステムも働いているのでスピンする事はありませんが、何と言っても4000万のクルマですから一瞬でもトラクションを失うのはあまり気持ちのいいものではありません。
しかし、幸い雨はすぐにやみました。
ノーマルでも恐ろしいほどのパワーでしたが、高架下の路面の濡れていない所でレースモードに切り替えフルスロットルを与えると・・。
なんだ雨でなくても低いギアでは簡単にホイールスピンするではありませんか!
タイヤはミシュラン製のパイロットスーパースポーツタイヤ(前輪255/35 ZR 20 、後輪315/35ZR 20)ですが、流石にこのパワーではひとたまりもありません。つまりFRのトラクションに対してこの740psのパワーはそれほどに圧倒的です。
直進性に一切の乱れ無いのは流石ですね。
トラクションコントロールが「バババ」と利いて、まるでF-1のようなステアリングのLEDレブカウンターが走るのを見るのはなかなかと刺激的です。
音とレスポンスは弾けるようなレーシングサウンドです。
ちょっと他の市販車とは比べようも無い勢いでレブカウンターが上昇します。
458と比べても野性味があり低く線の太いサウンド&豪快な加速です。
ハイチューンのV12は高負荷を与えると、低くしかし弾けるようにエッジの立った音と加速で炸裂します。
それは昔のフェラーリのように高音で歌うような優雅なものではありません。
つまり「天使の囁き」なんて生やさしいものではなく「悪魔の叫び」です。
この豪快な刺激とスピードを楽しみながらコントロールするにはやはりそれなりの経験とスキルが必要とされます。
しかし流石にTVRなどと違って高回転になるほど粒が揃ってくるのはフェラーリですね。
6into1のエキマニが等長化されておりサウンドの適正化を図っているからですが、刺激的で官能的な音色です。
足回り★★★★
まず乗り心地のいいことが印象的です。
ポルシェもそうですが、最新のスーパースポーツは乗り心地においても一級品です。
細かな振動や雑味が無く、その上質な乗り心地は並みのセダンよりも遥かに快適です。
形式はフロントがロア・Lアーム、リアがマルチリンクという伝統的なダブル・ウィッシュボーンですが、ダンパーにはBWIグループ社製の磁性流体ダンパー(SCM-E)が採用され効果を発揮しているようです。
F12のGT的に快適な乗り心地はモードをレースに切り替えても同じです。
少し揺れの周期は速くなりますが上質さは変わりません。
十分に快適な範疇です。
レースモードにするとステアリングも重くなり安定感を増します。
ブレーキは最新のカーボンセラミック・ブレーキ・システム(CCM3)です。
これはカーボン特有の癖も無く音もしないのですが、いまいちフィールが柔らかい感じです。
全体のバランスからするともっとソリッドであって欲しいと感じました。
ハンドリングはミッドシップの458と比べると流石にニュートラルという感覚は薄いです。
シートポジションも高くGT的な性格が与えられています。
コーナーではニュートラルな特性を武器にグリップ走行で速さを求める458に対し、このF12はFRでドリフトも楽しめるセットになっています。
もちろんキャンセルしなければ最新の電子車両制御システム(E-diff、ESC、F1-Trac、ハイパフォーマンスABS)がバックアップしてくれます。
ブレーキと並んで気になったのはステアリングです。
コーナリング中のステアリング操作を最小限に抑えるべく11.5対1という超クイックなステアリングレシオにしてあるのですが、雨もあってこれがちょっと気になりました。
ステアリング・アングルが599よりも32%も軽減されているのでちょっとナーバスです。GT的な性格とこれもマッチしません。
総評★★★★★
フェラーリのラインの中では「カルフォルニア」はFR・電動オープン・2+2で手軽で実用的なキャラ、「458」はハンドリングNo.1のリアルスポーツ、4WD&2+2の「FF(フォーフォー)」は高級でサイズも大きく実用的ですね。
するとやはりこのF12ベルリネッタはフェラーリのフラッグシップであり、史上最強のV12を積んだ高級FRとしてGTスポーツ的キャラでしょう。
FF(フォーフォー)並みにいい乗り心地とそれよりも遥かに緊張感のあるハンドリングで腕のある人なら458よりも簡単にドリフトを楽しめます。
担当してくれたセールス氏に万が一、買うとしたら?と聞いてみると、まずは手付けに300万!その後、カラーなど仕様を決める時に300万、そして約1年待って登録時に残金を(この固体の場合3400万)だそうです。
ただ、値落ちは少ないですね。
ショールームには5年落ちの599がありましたが、50%以上の残存価格を維持しています。今や信頼性も高く、7年間の無料メンテナンスプログラムも付いています。
というか、なに買う気になっているのだろう?
試乗を終えコーンズの豪華なショールームでこれまた美味しいコーヒーなど頂いているとすっかり優雅な気分になってしまいます。
とにかく凄いクルマです。
辛口が売りの試乗オヤジですから、スタイルとブレーキ、ステアリングの件から足回りの項目で星を1つ引きましたが、もちろん総評は5つ★です。
レーシングユニットのようなスーパーレスポンス&ハイパワー・エンジンにF-1の最新技術をつぎ込んだパッケージング&メカニズムを与え、フェラーリのブランドスパイスでくるんだクルマです。
間違いなくクルマ好きの琴線を刺激します。
こんなクルマで休日にサーキットに出かけてドリフトを楽しむなんて出来たら最高ですね。
腕はともかく財力はかなり鍛えなくてはいけません。
まあ夢は大きい方がいいのでこんなクルマを目標に人生設計を考え直すのもいいかもしれません。
それほどの価値のあるクルマだと感じました。
【スペック】ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4618×1942×1273mm/ホイールベース:2720mm/車重:1525kg/駆動方式:FR/エンジン:6.3リッターV12 DOHC 48バルブ/トランスミッション:7段AT/最大出力:740ps(545kW)/8250rpm/最大トルク:70.3kgm(690Nm)/6000rpm/タイヤ:(前)255/35ZR20(後)315/35ZR20(ミシュラン・パイロット スーパースポーツ)/燃費:6.6km/リッター(ECE+EUDC複合サイクル)/価格:3590万円
(※この記事は2013年3月に書いたものです。有料版の記事の一部を加筆訂正し約1年遅れで配信しています。)