もしやこれは新しいタイプの高級車?
グランフロント大阪のパナソニックのショールーム内にテスラのブースがあり、試乗も出来るというので早速出かけてみました。
テスラはトヨタやパナソニックと資本関係にあり、テスラのリチウムイオン・バッテリーはパナソニック製なのですね。
なので、パナソニックのショールームにあるわけです。
テスラのシャーシにはパナソニックの18650サイズ7000本が封入されています。
テスラはEVベンチャーとして2003年にアメリカのアメリカ西海岸のシリコンバレー(パロアルト)で設立されました。
代表のイーロン・マスクは電子決済システム「PayPal」の創設者として大成功し、民間ロケット打ち上げ企業「スペースX」を創設するなど新しい分野において卓越したビジネスセンスを発揮する人物です。
このタイプSはロードスターに続く第2弾として発表されたLクラスの高級セダンです。
これはテスラがベンチャーから本格的な自動車メーカーとしての道を歩み始めたことをも示しています。
実際エリーゼベースで手作りに近かった08年に発売されたロードスターに対し、このタイプSは元NUMMI(GMとトヨタの合弁工場)で製造されています。
来年にはモデルSの基本コンポーネンツを使った、第3弾となるSUV「モデルX」やさらなる廉価版も予定されています。
スタイル★★★★
サイズは全長×全幅×全高=4978×1964×1435mm/ホイールベース=2959mmですからメルセデス・ベンツの「Sクラス」と同じくらいだと思えばイメージしやすいです。
EVですから本来フロントグリルは不要のはずですが、フロント中央にはブラックアウトした部分がデザインされているのは、やはりこのクラスの保守層にも受け入れられやすいデザインとしたかったのでしょう。
このあたりもテスラがこのタイプSでベンチャーから本格的な自動車メーカーへの転化を狙っている姿勢が伺えます。
フォルムはお気付きのようにマツダをイメージさせるものです。
デザイナーのフランツ・フォン・ホルツハウゼンはかつて北米マツダにいて、「龍雅(Ryuga)」や「葉風(Hakaze)」などのコンセプトカーをデザインしている人物といえば納得でしょう。
特にサイドからリアにかけての優雅な流れは「アテンザ」のイメージです。
ただリアはハッチバックで大きな開口部を持ちます。
リアエンドのテールランプの処理などはジャガーXFっぽい感じもありますね。
面白いのはドアのアウターハンドルです。
通常はドアパネルにフラットに収納されており、指で触れると綺麗な照明とともにせり出してきます。
このあたりはコストの許される高級車ならではの愉しみです。
内装★★★★★
ここはこのクルマのハイライトですね。
外観以上に制約にとらわれないこのモダンでクリーンな感覚は新しい時代のクルマの到来を予感させます。
ステアリングはテスラのエンブレムである「T」のエンブレムが配置されています。
もっとも特徴的なのはセンターパネルに17インチ!の縦型タッチスクリーンが配置されていることでしょう。
この巨大なiPadが張り付いたかのような光景はクルマとは思えない違和感がありますが、慣れればこれがクルマにとっても最高のインターフェイスであることに気づきます。
カーナビはもちろんグーグルマップです。
ネットも常時接続でナビだけではなく車両制御のソフトのバージョンアップも随時行われます。
買った後もどんどん進化してゆく可能性があるわけですね。
とにかくココでほぼすべての操作が可能なため、インパネまわりにはスイッチがほとんどありません。
オーディオやエアコンはもちろん、充電状況の確認、ステアリングの重さ設定、エアサスの車高設定、回生ブレーキの強弱、サンルーフの開閉などの操作が可能です。
またフロアが完全にフラットなので本来センターコンソールのある位置に鞄が置けたりするのも便利ですし、リアはそれこそ広大なリビングのような感覚です。
テスト車はサンルーフがあり、リアのヘッドクリアランスはミニマムですが、白レザーの車内は明るくデザインがモダンであることがそれ以上に印象的でした。
こうしたスペシャリテはこれでいいのです。
それよりドアの内張りのデザインなど、これまでの自動車の概念にとらわれない新しさが楽しいです。
また、ラゲッジは広大です。
リアは745リッター(リアシートを倒せば1645リッター)、フロント・トランクは150リッター(エンジンが無いというのはこういうことなのですね)の合計895リッターが確保されています。
Sクラスのラゲッジスペースは524リッターですからそのスペースは圧倒的です。
このシャーシでミニバンなど作れば可能性が広がりそうです。
また定員は5人ですが、1500ドルのエクストラコストを支払えば、後ろ向きの子供用2座席をラゲッジルームに設置することもできます。
エンジン・ミッション★★★★★
ここはちょっと驚きました。素晴らしいパフォーマンス&レスポンスです!
そしてスムーズネスです!
モデルSには搭載バッテリーの容量が40kWh、60kWh、85kWhと3タイプありますが、日本に輸入されるのは一番容量の大きい85kWhでその航続距離はEPA(米環境保護庁)データで426km。
これはもちろん世界で売られているEV走行可能距離としてはナンバーワンです。ちなみにリーフのバッテリー容量は24kWhです。
テスラはEV最大のネックであった航続距離の問題を解決しています。
しかもバッテリーはシャーシ下部に密閉され、寒い地域でも性能低下が無いそうです。
実際ノルウェーでもよく売れているとか!
充電は家庭用の100V/200Vの他、テスラ企画の200V、またリーフと同じ日本の急速充電の規格である「CHAdeMO(チャデモ)」にも対応しています。
駆動方式はRR、三相交流誘導モーターのパフォーマンスは(416ps/5000-6700rpm、61.2kgm/0-5100rpm)と素晴らしいものです。
特に61.2kgmという巨大なトルクがスタート時から得られるというのは強みです。
とにかくレスポンスが素晴らしく中間加速の速さはこのクラスのセダンではAMGなどを含めてもちょっと経験がないほどのものです。
もちろん無音ですので、強力なGのみが襲ってくるこの感覚は正に新しい高級車です。
回生ブレーキの強さも調整できます。
通常は少し強めで慣れればアクセルワンペダルである程度のコントロールが利きます。利きを緩くすればコースティングモードのような疾走感も楽しめます。
ちなみに「テスラ」の社名は交流電流モーターの発明などで知られるニコラ・テスラに敬意を払ってのものだといいます。
足回り★★★★
ここも凄いですね。
確かに新しい感覚があります。
エアサスの乗り心地は十分にソフトです。
そういう意味ではアメ車のいい部分を持っています。
しかし飛ばせばしっかりと強靭な一面も見せてくれます。
シャーシもボディもアルミですが、乗り心地にアルミの嫌な硬さはありません。
星が一つ欠けるのは僅かに内装の建付けに緩さがあり、荒れた路面で微振動が残ることです。
ここがもう少しスムーズになれば文句なしに高級車の乗り心地です。
ハンドリングはバッテリーを床下に積む構造上、車体は極めて低重心で、交差点をひとつ曲がるだけで圧倒的な安定感とバランスの良さを感じることができます。
駆動用モーターは後輪の間に搭載され、前後の重量配分は48:52です。
そして1964mmという車幅が利いているのでしょう。とにかく早いステアリングワークでもヒラリヒラリと抜群の回頭性を見せます。
これは気持ちいいですね。この感覚は車幅1900mm以上のいいクルマだけに稀に感じる特別な感覚です。
またステアリングのフィールも電動の割りに良く路面の状況を伝えます。
重さを3段階に変えられるのもいいですね。
総評★★★★☆
テスラSに乗って感じたのは、これはまったく新しい感覚を持つ新時代の高級車だということです。
テスラSは圧倒的なパフォーマンスとスムーズネスを持っています。
この性能はしかも最高の環境性能とも両立します。
つまりこのクルマという枠を超えて洗練されたリビングのようなインテリアに身を任せ、無音で強力な素晴らしいパフォーマンスと異次元のハンドリングを味わっていると、ちょっとこれまでのベクトルの延長線上にはない、言わば飛び道具的な技術的ワープ感を感じずにはいられません。
高級車として新しい楽しさを持っています。
テスラの最大の功績は、これまで自動車は自動車メーカーにしか量産できないと思われてきた常識を覆したことにもあります。
次世代乗用車の本命と目されるEVは、クルマのなかで最も複雑で最もノウハウと開発コストのかかるエンジンを搭載しないことから、これからも多くのベンチャーの参入が予想されています。
現在EVベンチャーとして世界でほぼ唯一の成功例といわれる同社はゆえにエポックな存在です。
私は以前にリーフを1週間試乗してその航続距離の短さからこれはちょっとまだ実用にならないなと感じました。
実際リーフの販売は低迷し、一方テスラは高価ですが好調です。
つまりこの種の新たなジャンルに投資する層は多少高価であっても面倒な事は嫌なのです。
リーフはそのあたりのマーケティングを誤ったわけです。
EVを買うような人はバッテリーのコストは払うわけです。
それは以前の編集後記にも書きましたが、テスラの成功の要因は唯一そこだったわけです。
テスラはEVとして十分な実用性を備えつつ、EVならではの新しい走行感覚と豊かなデザインを与えました。
リーフには残念ながらそのどちらもが無かったわけです。
テスラは新しい時代の高級車としてこれまでSクラスや7シリーズに乗っていてクルマにちょっと飽きたような人にも新たな刺激と魅力を与えてくれると思います。
テスラが現在EVベンチャーの唯一成功しているのはやはりクルマとしての実用性と魅力をしっかりと持っているからなのでしょう。
【スペック】全長×全幅×全高=4978×1964×1435mm/ホイールベース=2959mm/車両重量=2108kg/駆動方式=RR/三相交流誘導モーター(416ps/5000-6700rpm、61.2kgm/0-5100rpm)
(※この記事は2013年6月に書いたものです。有料版の記事の一部を加筆訂正し約1年遅れで配信しています。)